ヤブコギノススメ

 バス釣りがオシャレな釣りだと思っているうちは、ろくなバスは釣れない。
 なぜならオシャレな格好をしていては、薮こぎは出来ないからである。誰にでも入れるようなポイントで型通りの釣りをしていたのでは、やはり釣れるバスはそれなりである。
 立ちはだかる薮を掻き分け未知のポイントを目指すには、やはり真夏でも長袖を着、露に濡れてもいい様に合羽を着てウェーダーを履き、手を切らない様に軍手、虫に食われない様に首にはタオルというような完全武装が必要である。そういうダサい格好をして人の入れないようなポイントに突撃してこそ真のオカッパリバサーである。長靴も持っていないような奴はバサーとさえ言えん。
 人はなぜそこまでして薮をこぐのか?それは基本的に他の人が撃たないポイントには大きなバスが残っている確率が高いからである。しかも、そういう場所にいるバスは油断しているためルアーを投げ込めばあっさり食ってくることが多い。簡単に入れないような場所にあるポイントであればあるほど、バージンのまま残されている確率は高くなる。
 実際、前も見えないような薮を掻き分け、辿り着いたポイントが桃源郷であったという経験は何度かある。メジャーなフィールドであればあるほど、誰にでも撃てるポイントにはバスがいなくても、他の人が敬遠するようなエリアにはバスが残っているものなのである。
 そういう訳で、僕などは野生動物のような薮こぎを平然と敢行するのであるが、薮こぎの有効性を知っているのは僕だけではないらしく、考えられないような場所にバサーの足跡が残されている事も多い。また、折角薮をこいで侵入した先にフローターが浮いていてがっかりした経験もある。
 意外なことを言うようだが、公園の様に整備されたきれいな池やダムほど、薮こぎの効果は高くなる。そういう場所は、人は多いのだがいわゆるサンデーアングラーの割合が圧倒的に多い。そういう人たちはあまり薮こぎなどしないものである。薮こぎが好きな人はそういうフィールドにはそもそも行かない。そのため、ちょっとした葦の向こうやオーバーハング下に潜り込むと、あっさりバスが釣れたりするものなのである。
 薮こぎ時の注意点は幾つかある。まず、前述したように服装である。植物の刺や虫さされを舐めては行けない。Tシャツで薮を掻き分けていたら腕といい首といい腫れあがってしまい、ひどい目にあったことがある。朝などは草に付いた露でびしょ濡れになり、風邪を引きかけたこともある。また、薮こぎをして勢い余って落水した事は数知れない。必ず着替えは持って言った方が良い。マムシやヒル、蜂に襲われることも十分考えなければいけない。最低でも長靴、長袖は真夏でも基本である。
 タックルは厳選すべきである。ロッドの本数が増えれば増えるほどトラブルは増える。場所によってはロッドを置いておくスペースも無いポイントもある。両手が塞がっていれば、もし崖などから転落しかけた時に掴まることも出来ない。ルアー類はウェストバックに収まる程度に留めた方が良い。また、キャスティングスペースも取れないような場所も多いので、ロッドは短い方が使い易い。ついでに言えば転倒時などにロッドをへし折るかもしれないので、専用の安物ロッドを用意しておくのも手である。
 こりゃー、とても行かれないわ、と思ってしまうような薮こそが行くべき道である。誰かが通った跡がある場所はスルーしてこそ他の人が釣り得なかったバスを釣ることが出来る。ただし、薮をこいで侵入したならば、必ず帰らなければならないということは常に頭に入れておかなければならない。断崖絶壁を降りたは良いが、とても上れなくてとんでもない距離を迂回せねばならなくなったこともある。また、折角行った先で釣れなかったりすると徒労感で帰りの道は距離が倍になったように感じる。
 倒木や枯れ木によじ登り、釣りキチ三平を気取っていたら突然木が折れて落水した事もある。崖をよじ登っていたら足場の岩が崩れ落ちてやはり落水した事もある。これらは下手をするとマジで死にかねないので、良い子は真似しない様に(僕は良い子じゃない)。ダムなどには岩が微妙なバランスで組み合せられた様な場所もあるが、こういう場所で崖崩れに巻き込まれると本気で洒落にならない(死ぬよまじで)。見極めが大切である。
 薮とはちょっと違うが、取水塔やへら台、桟橋、各種人工施設などによじ登る際も注意せねばならない。老朽化したへら台に乗ったら突然沈み始めたこともある。ダムなどにある取水排水に関わる施設は基本的には立ち入り禁止なので、見つかったら怒られることは覚悟しなければならない。というより、入らないでね。
 このように、身近なレジャーである筈のバス釣りも、本気でやるとかなり命懸けの冒険になることが分かる。ただし、薮こぎに凝り過ぎるといつの間にかキノコ獲りや山菜取りに熱中してしまい、本来の目的を見失って釣りをしている暇が無くなるので、ほどほどにした方が良い。




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