我が麗しのPOP

  名前が良い。まず。

  読んだ時の響きが良い。テンポが良く、滑舌の悪い人でも言い易い。なんだか怪しげな雰囲気さえある。アルファベットにすると「POPX」簡潔明瞭だ。誰が読んでもポッパーだと分かる。カタカナで書いても「ポップエックス」実に収まりが良い。実に良い名前ではないか。

  などと、名前一つで一文が書けてしまうほど溺愛しているルアー。それがPOP Xである。このルアーとの出会いはバス釣りを再開して半年ほど経た頃の事であった。

  この頃(03年の事)のPOP Xは、正に幻だった。普通の釣具屋ではまずお目にかかれなかった。僕がそのことを知るのは大分後になってからなのだが、その時、なぜか行き付けの釣具屋にたまたまPOP Xがあったのである。

  当たり前というのもなんだが、当然の様にお買い上げ販売(5000円以上買えば売ってやる商法)ではあった。しかし、当時の僕はバスルアーを買い集めている最中だったので、欲しいルアーがたくさんあったのである。5000円くらいは軽く買えてしまっていたのだ。僕はあまり良く考えず、その希少性も知らず、無感動にPOPXを手に入れた。

  人気があるルアーだということは知っていたが、どこがどのように優れているのかしらん?確かめてやらねばなるまい。僕はあっさりとパッケージを空け、そいつをタックルボックスに放り込んだ。その時、その希少性を知っていたら?少しは躊躇ったかもしれない。

  実は、手に入れた時、既にトップの季節は終わっていた。11月末。その当時通っていた地元のリザーバーは既に冬と言っても過言では無く、僕は手袋をして釣りをしていた。当時凝っていた自作のトップルアーは完全に沈黙。釣れるのはディープクランクか、カットテールのステイでのみあった。

  得意の岬回りで持ってきたルアーを絨毯爆撃。そのポイントはすっかり終わってしまったと判断した僕は、POPXを取り出した。

  なんでそんなタイミングで取り出したのかは記憶に無い。多分、どうせトップになんて出やせん、と判断したからなのだろう。岬近くにキャスト。動きを確認しつつ、ポップ&ステイ&首振り。そんな感じで動かしていると…。

  なんと水面が割れたのである。その衝撃は忘れ難い。バスのサイズは小さかったが、その一匹は僕に、POPXの釣獲能力をまざまざと見せ付けてくれたのである。

  POP Xの釣獲能力の源は何処にあるのだろうか。例によって独断と偏見で分析してみよう。

  POP Xはポッパーであるが、他のポッパーとはかなり違う特徴を有している。まず「サイレントポッパー」の異名を取る、控えめで高いポップ音である。音量の変化が付け易いのも特徴だ。次に、浮力が低く水馴染みの良いボディ。これが絶妙な水よれを生んでいる。水の上を滑るのではなく、水を揺らす感じがする。慣性バランサーによる非常に多彩なアクションは、ポッパーというよりはペンシルに近い。そして意外に重要なのが上顎に設置されたラインアイにより、ポッパーにしては珍しく、ダイビングアクションが付け易くなっている事である。

  これらを総合すると、非常に繊細なアクションが付け易いという、ポッパーとしては他に類をみない特徴となる。ショートターンでゆっくりと、それでいて水押しの強いボディは確実にバスにルアーの存在を知らしめる事が出来、ポップ音がバスに程好い刺激を与えてくれる訳である。水面下2cmくらいまでダイビング出来るのも重要で、これによって本来はシャローミノーにしか出なかったような「トップに出切らないバス」にまで口を使わせる事が可能になっているようだ。これが恐らくPOPXの魔法の正体だと思う。

  僕はPOP XはPOP Xという一つのジャンルだと思っている。故にこいつをただのポッパーとして使ったのでは宝の持ち腐れになる。

  どうにも渋い状況下でのPOP Xの使い方だが、まず、必ずポイントまでロングキャストすること。そして、着水後は波紋が消えるくらいまではロングステイ。この辺は基本である。それから「なるべくポップ音やスプラッシュが出ないように」繊細に繊細にショートターンを行う。これでバスをある程度浮かせるのである。そして、バスが寄ったな、と思ったら、そこで良い音が出るようにポップ音を一発。バスに切っ掛けを与えてバイトに持ち込む。大体こんな感じで使うと良いようだ。あくまで個人的にはだが。何しろ多彩なアクションが出せるルアーなので、いろいろ試しながらやるのが楽しいと思う。

  最近は釣具屋でたまに姿を見掛けるようになったPOP Xである。レア度が薄れたと嘆く向きもあるようだが、個人的には気楽に買えるようになった事は大歓迎だ。何せかつてはカラーを選ぶなど夢物語だった。お勧めカラーとしては、透光度の高めのカラー、ファントム系やスクープキラーが良いと思う。ブラックバグもお気に入りのカラーだ。

  ポッパー、いや、全てのトッププラグの中で一番釣れるルアーは何かと聞かれたら、贔屓無しでPOPXだと断言出来る。そのすばらしいデザイン、美しい仕上がりを加味すれば、あらゆるプラグの中で最も販売実績が高いというのも頷けるのではないか。

  数少ない欠点としては、ぶつけた衝撃で中のウエイト固定のピンが折れ易い事、フックが激錆び易い事ぐらいだろう。だが、普通のルアーなら、壊れた瞬間にごみ箱行きとなるものだが、POPXだけはどうしても捨てられない。なぜかと言えば、その一つ一つに衝撃的なバイトシーンの思い出が付随しているからである。

  既に個人的にも伝説的なルアー、POP X。これからも劇的な釣りを楽しませてくれる事を、僕はほとんど信仰している。




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