釣れないバス釣り

  バスは、概ね釣り易い魚である。

  日本在来の淡水魚類、コイ、ヘラブナ、マブナ、イワナ、ヤマメ、ハヤ、オイカワなどと比較して、格段に釣り易い。特に、ルアーの対象魚としてはダントツに釣れる魚であると言って良いであろう。あれほどルアーに対して積極的な反応を示す魚は、日本在来魚には存在しない。故にバスは、我々アングラーにとって唯一無二の存在なのである。簡単に「トラウトのニジマスか、海のシーバスでも釣りゃーいいじゃん」など言わないで欲しい。バスがこの世からいなくなったらバスルアーなどを食ってくれる魚は日本にいない。

  ところが、その釣り易い筈の、お馬鹿な魚である筈のバスが、一向に釣れない日というのが存在するのである。あたかもその日だけバスが賢くなったか、草食にでもなったか、断食を始めたのか?と疑いたくなるほどに。しかも、季節は最高、天気も最高、ポイントも実績、なのに釣れん、という事がある。そろそろいっぱしのバスアングラーになったつもりでいると、時折こういう目にあってプライドをずたずたにされてしまう。それがバス釣りっちゅーもんである。

  バスは水温に応じて活性が変化する。基本的には水温が10度〜20度の範囲であれば活発に動く事が出来、時合いにはベイトを捕食している。これがいわゆる高活性状態である。

  しかし、この水温と言うのが実は曲者なのである。例えば水温が12度〜13度の間で安定しているような時は、バスは額面通りの高活性状態を保つ。しかし水温が安定せず、10度〜15度の間で大きく変動してしまうような時には、水温が高くても元気が無くなってしまうのである。人間が季節の境目、気温の変動が激しい時に体調を崩し易いのに似ている。秋口、ぽかぽか陽気なのにバスは無反応などという日がこれに当たる。これは、夜の間に水温が急低下しているのである。

  また、水質の悪化もバスの活性を下げ易い。見た目に分かるような悪化なら良いが、一見分からないような水質の悪化が困る。有名なターンオーバーはまだしも分かり易い。一番気がつき難いのは減水である。ほんの僅か、たったの10cm水位が下がっただけで池全体の水質が悪化し、釣れなくなる事がある。毎日通っているならば兎も角、たまにしか来ないフィールドではこれは分からない。近くの田んぼで農薬が撒かれたなどという事も、バスの活性を大きく下げる原因となる。

  ベイトフィッシュが大移動してしまったなどという理由もある。大場所に多いのだが、ワカサギ、オイカワなどは産卵や水温の変化で大移動する事があるのである。それこそそのエリアから根こそぎ消えてしまうのだ。この場合、逆に探り当てられれば大釣りも可能なのだが、先週いい思いをした場所が、次の週は大沈黙というようなどつぼにも嵌まり易い。

  このような自然環境的な変化による物であれば、釣れなくてもまだしも納得が出来る。しかし、他の人は普通に釣れているのに、自分はまったく釣れないなどという、神の公平を疑いたくなる様な時もある。隣り合わせに同じリグを投げているのに釣果に差がつく。「腕だよ腕」などといわれると悔しさで悶絶しそうになる。

  腕の差は兎も角、この場合は往々にして相手に釣られて焦ってしまい、釣り方が雑になっている事が多い。気持ちを鎮めて、丁寧な釣りをすればちゃんと釣れる。これが難しいのだが…。釣れている人のリグを子細に観察して、ワームのカラー、サイズ、ダウンショットのリーダーの長さなどを真似するのもよい。但しこれは、焦りを助長してどつぼになる事も多いが。

  釣れない時間が長くなると何より集中力を維持し難くなる。集中力が無ければ突発的な当たりを逃してしまったり、ファイトで焦ってばらしてしまう事も多くなる。これを防ぐには適度に休憩を入れ、頭の中を切り替える事が効果的である。

  一番まずいのは釣れないからといって手を変え品を変え試行錯誤してしまう事である。一見逆のようであるが、釣れない時こそ自分の経験と判断を信じて選択したリグを、自信を持って投げ倒すべきなのである。往々にして、釣れない時の試行錯誤は、考え無しに単に知っているリグを順番に投入するだけになってしまい易い。これをやってしまうとリグが品切れになってしまった時に最早やる事が無くなって自信喪失に陥り易いのである。

  釣れない釣りは辛い。第一楽しくない。しかし、だからといって、とっとと帰ってしまうようでは真のアングラーとは言えない。激渋の中で絞り出した一匹は、爆釣の中で釣り上げたデカバスよりも強く心に焼き付けられる物である。例え釣れなくても、この経験は必ず明日の釣果に繋がると信じて、最後まで釣りを全うするのが本物のアングラーというものである。

  ただし、初めから渋いと分かっているフィールドに行くよりは、より安易に釣れるフィールドに行きたいと思うのも、またアングラーの正直な気持ちではあろうけども。




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