写真の撮影の作法

  カメラ付き携帯の恩恵を一番受けているのはアングラーかもしれない。

  何しろアングラーは自分の釣った魚を他人に見て欲しくてたまらない人種である。自分の釣った大物を簡単に撮影する事が出来るカメラ付き携帯は、竿とリールと並んでいまやアングラーの必需品に成り上がったといえよう。

  アングラーがでかいバスを釣ったとする。

  近くに仲間が居れば話しは簡単である。カメラを渡して撮影を依頼すれば良い。この場合、アングラーは安心してポーズを取ることだけに専念すれば良い。

  ポーズはかなり重要である。下手な持ち方をするとバスが小さく見えてしまう。意外なことに、尻尾に手を添えてバスを横持ちするとバスは実際より小さく写ってしまう。やはりバス持ちしてぶら下げた方が大きさは際立つ。あまり顔に近づけるとバスより顔の方が目立ってしまってむさ苦しいので、ややバスは前に出した方がいいようだ。ただし、少しでもバスを大きく見せようとバスをカメラに向けて突き出すのは、あさましい感じがするので止めた方が良い。

  表情はやはり笑顔で。仏頂面で写っているとなぜかバスは小さく見えるものである。大体わざわざ写真を撮るのであるからさわやかな笑顔で写りたいものである。ただしあまりにも嬉しそうな顔で写るのもなかなかに恥ずかしいものである。雑誌に出てくる有名アングラーの真似をして派手なポーズや変な顔をするのは出来上がった画像はともかく撮影時に脇で見ている人が引くので止めた方がいい。ただ、お見合い写真のような固い写真もまたつまらないので、その辺りのさじ加減が難しい所である。

  さて、困るのは自分一人しか居なかった時のことである。セルフ撮影でバス持ちの写真を撮るのは熟練を要する難しい技術である。下手をすると自分の顔ばかり撮れてしまうという結果になりかねない。セルフタイマーという手段もあるが、あれはシャッターが切られるのを身構えて緊張してしまうという欠点がある。

  バス釣りは記録の釣りであるから、バスのサイズを計測している所を撮影したい。メジャーを脇かバスの下に敷き「ほら、これが50UPだよ」とやる訳である。しかしこれが意外に難しい。何しろ生きているバスは撮影中に跳ねたり暴れたりするので大人しくさせるのが至難の技なのである。おまけに、バスが釣れた場所によってはメジャーを置くのに適当な平らな場所が確保できないこともある。しかも不思議なことに、メジャーを横に置いたバスの写真できちんと大きさが分かるような写真は撮れたことが無い。

  バスは撮影後に当然リリースするので、撮影時のバスの扱いには注意したい。焼けたコンクリートなどにバスを寝せて撮影を行なうことは避けたい。バスが火傷をしてしまうからである。濡れた土か草の上で撮影するようにしよう。それが不可能ならば手で持ったまま撮影してバスを地面に置かない方がいい。バスの持ち方も必ず口を持ってバスが真っ直ぐぶら下がるように持つこと。バスを片手で横にする人が居るが、あれではバスの首に負担が掛かってしまう。あと、撮影は可能な限り短時間で終わらせて、速やかにリリースしたいものである。

  バスの撮影には失敗が付き物だが、よくあるのが撮影したらレンズが曇っていて良く写っていないというパターンである。自己記録級のバスでこれをやらかすと一生その曇った写真を人に見せなければならない可能性がある。下手をするとサイズを誤魔化すためにわざと写りを悪くしたのではないか?などと無用な疑惑をよばないとも限らないので、撮影前にレンズをきれいにする事は習慣にして置いた方がいい。また、カメラによってはデータの保存に時間が掛かるものもあり、下手に連続撮影を行なうとデータを保存してくれない場合がある。これも気を付けないとせっかくの記念バスの写真が撮れていなかったという事態になり、かなり凹むので注意した方がいい。

  撮影しようとして、バスを寝かせて手を放したら、突然バスが暴れ出して水中にジャボン!というのもなかなかに痛ましい。せっかくでかい奴を釣ったのに写真が残せなかったとなると、なんだかバスをばらしたかのような錯覚に陥る。きちんと顎を持って押さえておいた方がいい。ちなみに、この時バスの口にプラグをぶら下げたままにしておくと、バスが暴れた時に手に刺さってしまったりバスを無用に傷つけてしまったりする可能性もあるので、僕は基本的にバスが釣れたらフックは即外すようにしている。

  撮影時の事故としてもっとも恐ろしいのは、誤ってカメラを水に落してしまうことである。殊にカメラ付き携帯の場合は思わず顔がムンクになるほどのショックを受ける。アドレス帳等のデータが飛んでしまうと日常生活に差し支える事態になるからである。必ず携帯の個人データはバックアップをとっておこう。出来れば撮影用に防水カメラが欲しい所である。というより各メーカーには防水カメラ付き携帯の開発を切に願いたい。ちなみに、僕はこれまで携帯電話を3回水没させている。経済的にも精神的にも痛すぎる事態であるのでまじで気を付けましょう。

  最近のカメラ付き携帯は画像もきれいになったし、パソコンに取り込めるようにもなったので、自分の釣ったバスをライブラリーにして見ながらにやにやするということが出来るようになった。HPや掲示板に投稿すれば自慢のバスを不特定多数の人にも見てもらえるわけである。釣り師としては非常に幸せな時代になったと言えるのではなかろうか。ただ、バスよりもバスを持っている人間の方が目立っている写真もかなり見受けられる。写真の主役がバスであることを忘れてしまうようでは真のアングラーとは呼べん。そこのところに気を使いつつ、いざという時のために、鏡の前でポーズの練習をしておいたほうがいい。

 




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