シックスセンス

  しっくすせんす、などと言うと何の事かと僕の様なアナログ人間は首を傾げるが、日本語訳すれば何のことはない、第六感のことであるらしい。

  人間の五感は視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚である。普通、人間はこの5つの感覚で日常生活を送っているものだ。しかしながら、人間は時折この五感では説明がつかないような感覚を働かせる事がある。これがいわゆる第六感である。

  広辞苑によれば「鋭く物事の本質を掴む心の働き」であるという。これでは一体何のことやら分からない。世の中では第六感は超能力の一種だという見方もあるらしい。勘、予感と言いかえればぐっと身近になるのだが。

  さて、一体なぜにここで第六感の意味を問い直しているのかと言えば、シックスセンスはバス釣り用語でもあるからである。

  いや、誰が使っているって、勿論某シャチョーなのだが…。まぁ、意外に便利な言葉ではあるので強引にバス釣り用語に含めてしまおう。

  はっきり言って、五感を総動員してバスを探すことはアングラーなら誰しも当たり前のことである。バスを「目」で探し、水音に「耳」を澄まし、水の臭いを「嗅ぎ」、水質を「舌」で確かめ、底質を「手」で触って確認する。それでこそバス釣りはアウトドアスポーツとなる。靴が泥に汚れることすら気にするような奴は、バス釣りにくるなと言いたい。

  しかしながら、五感だけを駆使していたのでは、まだ当たり前のアングラーなのである。その中で頭一つでも抜きん出ようとするならば、それだけではない第六感、シックスセンスまで働かせてバスを探さねばならない。

  シックスセンスなどというあやふやな感覚がバスを探すのに役にたつのか?実際、それは何とも言えない。しかしながら、僕が知っている何人かのアングラーは、このシックスセンスが人よりも優れているとしか思えないような閃きを発揮してバスを釣ってくる。

  いわゆる、セオリー通りの釣りは知識を集め経験を積めば誰にでも出来るものだ。セオリー通りの当たり前の釣りをしても、それが適時適所で行なわれるならばバスはきちんと釣れる(当たり前だが)。シックスセンスが威力を発揮するのは、セオリーが通用しない時。すなわち、バスが釣れるとも思えないような激ネガコンディション時である事が多い。

  それは真冬の野池であったり、激ターンオーバーのダム湖、クリアな川、ハイプレッシャーの平野湖であったりする。そういう場面でセオリー通りの釣りをやってもそうそう釣れるものではない。しかし、そこでシックスセンスを発動させられるアングラーは、いきなりトップ系ルアーを投げて釣ったり、バイブレーションの早巻き、ビッグベイトのぶん投げなど周囲の人が唖然とするようなメゾットでデカバスを仕留めてくるのである。

  では、シックスセンスが働く人というのは並みのアングラーと何が違うのか?

  これは、シックスセンスの定義が曖昧であるから、はっきりとは言いきれない。しかし、個人的見解では、バス釣り的なシックスセンスとは経験と想像力に基づく勘のことではないかと思う。

  唯の勘、ではない筈だ。唯の勘であれば、その釣果は本人にも説明出来ないようなまぐれ釣果になってしまう。しかし、シックスセンスがひらめいた時の釣果は釣った本人には十分説明出来うる理由がある釣果なのである。問題なのは、その理屈が大きくセオリーから外れている、他人が聞けば納得し得ないような理屈である事が多いということである。

  そこがシックスセンスたる所以なのであるが、そういう理屈は意識してそう導き出したものではないのである。五感を駆使して集めたフィールドの状況を、知識と過去の釣行の経験に照らし合わせる。ここまでは普通のアングラーと同じなのであるが、そこから更にシックスセンスに優れたアングラーは、ある意味、独善的な理論を無意識下からひねり出すのである。その突拍子もない理論に何の疑いも抱かず、全てを賭けて実行に移せるアングラー。そういうアングラーこそシックスセンスを持ったアングラーであると言うことが出来る。

  なんだか貶しているような言い草になったが、そうではない。誰しも釣りをやっている最中に、無意識下からの囁きが聞こえる瞬間はあるのである。しかしそこで、その囁きをセオリーと照らし合わせ「そんなばかな」と考えて捨ててしまうアングラーが結構多いのだ。無意識下からの囁きに自分なりの理論武装を施せるアングラーでなければ、往々にして無謀なことが多いその囁きにすべてを賭けることなど出来ない。このため、シックスセンスを感じさせるアングラーは経験豊富な事が多い。

  逆に、まったくセオリーを知らない超初心者が恐ろしく独創的な発想でデカバスを釣ってくることがあるが、あれも理屈は同じである。知らない分だけ無意識下からの囁きに素直なのである。たまにほんのガキンチョが素晴らしい釣果を叩き出していることもある。あれなども若さが生む無謀さがシックスセンス的な閃きを生んでいるのであろう。若いということはうらやましいものである。

  しかしながら、経験と知識が無意識下からシックスセンスを引き出すというこの理屈でいけば、経験豊富なアングラーの方がより精度の高いシックスセンスを発動させられる筈である。豊富な知識と経験を持つ、子供の様に素直なアングラーこそシックスセンスに優れた最強のアングラーとなりうる、のかもしれない。

  まぁ、もっとも釣り場で「ぴぴっときた!」などと言って突拍子もない事をやり始めた挙げ句、全然効果が無くて諦めるアングラーの姿を、見掛けない訳ではない。あれはなかなかにみっとも無いものである。未熟を自覚する内は無難にセオリーに従っていた方が、釣り場で恥をかく可能性は少ないかも知れん。




TOP