ロングキャストの誘惑

  男は飛距離に拘るものである。

  ホームラン、ゴルフのドライバーショットから小便(失礼)の飛距離に至るまで、男はなんでも人よりも遠くに飛ばすことに自分のプライドを掛ける。

  バス釣りにおいてもしかりである。

  例えば、二人並んで釣りをしたとする。一方がバイブレーションをフルキャストする。ルアーはキレイな放物線を描いて遠方に着水する。すると、もう一方も黙っていられない。急いで自分もよく飛ぶバイブレーションに付け替えてフルキャストする。いつのまにか釣果は度外視して遠投合戦が始まってしまう…。この様な風景は釣り場で頻繁に目にする事が出来る(かもしれん)。

  もちろん、飛ばせばバスが釣れるというものでもない。バスは基本的にはシャロー、つまり岸際で捕食を行なう魚である。そのため、狙うべき場所はそれほど遠くではない事が多い。むしろストラクチャー際を狙い撃つ正確性こそが問われるべきで、ロングキャストはバス釣り的にはさして重要ではないのである。

  しかしながら、広大なシャローフラットで釣りをする際や、シャローの向こうにあるブレイクを狙ったりウィードエリアで釣りをしたりする際にはロングキャストが要求されることもある。特にハードルアーで釣りをする際には5mの飛距離の違いが重大な結果の差を引き起こすこともある。ハイプレッシャーでバスが沖に出てしまっている場合にも、やはりロングキャスタビリティの差が釣果に繋がる場合も有る。

  さて、簡単なことを言えば、ロングキャストをしたければショア用シーバスタックルを使えば良い。長いスピニングロッドにPEラインというセッティングである。

単純に、ロッドは長ければ長いほど飛距離的には有利である。飛距離だけを考えるならば、どうしてもスプールの回転抵抗の生ずるベイトリールよりもスピニングタックルの方が優れていると言わなければならない。ラインは軽ければ軽いほど飛ぶ。飛距離の重要性がバス釣りよりも遥かに高いショア用シーバスタックルこそ飛距離を求めた場合の究極のセッティングであると言えるのである。実際、飛距離命のヘビキャロなどにシーバス用セッティングを使っている人もいなくはない。

  しかしながら、このセッティングはバス釣り的には大変不便なセッティングである。何しろコントロール性能は皆無。ロッドは重く固すぎ、ルアーの適応範囲は狭い。利便性を考えた場合、やはり非現実的であると言わなければならない。

  バス用ベイトタックルを使用してロングキャストをする上で最も重要なのは、やはりリールのお値段である(スピニングリールの場合は構造上、ラインさえ一緒ならどのリールも飛距離は一緒のはずである)。ベイトリールの価格差は正に飛距離の違いであると言い切っても過言ではない。ベイトリールの飛距離を決定付けるのははっきり言えばスプールの回転性能とブレーキの性能である。これが価格によって(具体的にはベアリングの数やブレーキの構造、スプールの素材の違いなどによって)違ってくるのである。

  しかしながら、これをカバーする方法は無くはない。最も簡単なのは、ラインを細くすることである。前述したように、ラインは軽くなればなるほど飛ばせるようになる。当然だがラインは細ければ細いほど軽い。PEラインならなお良い。ロッドを長くするのも有効であるが、これはコントロール性能の悪化に繋がるので善し悪しである。ロッド的には固さも重要である。ルアーに対して柔らかすぎるロッドや固すぎるロッドではやはり飛距離は伸びない。

  キャスティング技術によってもやはり飛距離は違ってくる。ロッドの撓りを活かし切る事が出来るか否かでやはり格段に飛距離に差が出てくる。パワーはあまり関係が無く、純粋に技術の問題である。浜釣りばりに垂らしを長く取ってスイング投法やターンキャスティングや4番打者投法やシャークキャスティングなど(どのような投げ方なのかがしりたければ釣りキチ三平を読むべし)を使えばもっと飛ぶかもしれないが、まぁそれはやはりバス釣り的ではない。

  一般的にアメリカ製のルアーは飛距離が出ない。これは、アメリカではボートフィッシングが主流なため、ロングキャストが日本よりも重要ではないからだという。実際日本のルアーはよく飛ぶものが多い。日本では圧倒的にオカッパリが主流なので、遠くに飛ばせないルアーは売れないからであろう。重心移動搭載のルアーは確かによく飛ぶが、固定重心のルアーもしっかり作ってあればそれなりに飛ぶものである。ちなみに、僕の知る限りもっとも飛ぶルアーの種類はでかいスプーンかメタルジグである。

  もう一度言うが、ロングキャストが釣果に関わることはあまり無いのである。そもそもバサーは釣れない時、自分のルアーが届かない沖にバスが逃げてしまったのに違いないと思い込み易い生物である。ボートに乗ってみればそれが幻想であることはすぐに分かるのだが。しかしながら、遥か彼方にルアーが着水するとそこに誰にも釣られたことが無いビッグバスがいるのではないかとわくわくする事も事実である。もっとも、狭い野池などだと対岸にルアーが届いてしまって、木に絡まって貴重なルアーが回収不能になる事もあるので、ほどほどにした方が良い。




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