リザーバーの興奮

  リザーバーが好きだ。理由は、なんか「秘境」という感じがするからである。

  リザーバー、要するにダム湖のことである。川をダムで堰きとめた人口湖。造成の理由は様々で、農業用の小さな野ダムから、発電、飲料用のために作られた、湖というに相応しい巨大な物まである。

  日本のバス釣りフィールドの中で特に有名なリザーバーはフロリダバスの聖地、池原ダムであろう。かのジム・バグリー氏によってフロリダバスが放されたというこのリザーバーは、毎年60UPが数十本も揚がるという日本離れした夢のフィールドとしてあまりにも有名だ。

  池原ダムは日本第2位の大きさを持つ巨大リザーバーである。このダムは非常に山奥にあり、行くのが物凄く大変らしい(行ってみたいが行った事はない)。ダムというものは、大型の物になればなるほど山奥に造られるという宿命を持つ。ダムは、水量の豊富な河の両岸が切り立った山で挟まれた場所で、作られた際に湖底に集落が沈まないエリアが立地条件として理想的である。結果、大型の物になればなるほど人里離れた山奥に造られることになる訳だ。

  その結果、リザーバーでのバス釣りは秘境探検の趣を帯びることになる。まず、行くのが大変だ。細く曲がりくねった山道を延々と昇って行く。車同士がすれ違えないような場所もあったりする。道が舗装されていないことも往々にしてある。そうして到着しても釣り場に降りるのがまた一苦労。何しろリザーバーというのは切り立った山の隙間に造られるものなのだ。崖を這いずるようにして釣り場に降り立っただけで既に一仕事終えた気分になる。

  リザーバーの立地上の特徴は釣りをする上でも重要である。コイ釣りをしていた頃、沖に向かって吸い込み仕掛けを投げたら延々と沈んでいってしまいびっくりした記憶があった。魚探で調べたところ、岸から10m離れただけで水深30mになっていたのだ。そう、リザーバーは急深なのである。バスは、基本的にはシャローを好む魚だ。ということは、リザーバーのバス釣りはひたすら岸際に尽きるということになる。

  特にオカッパリをやる際にこれは重要な特徴となる。岸からほんの5mの幅がスイートスポットになるのだ。岸際を延々と歩いて行き、進行方向のポイントを打って行く。その際、その日のバスがどのレンジにいるかを知ることが重要である。レンジによってルアーを岸からどれくらい離れた位置に投げ込まなければならないかが決まってくるからだ。ボートなら単純である。内周を回りながらひたすら岸際にルアーを投げるだけで良い。

  シャローが少ないということは、逆に言えば少ないシャローがポイントとなり易いということが言える。何かの拍子に浅くなっているポイント、インレットで砂が堆積した場所、崖崩れの跡などはリザーバーでの定番ポイントとなる。

  ディープはどうなのか。バスは、夏場などは水深10mを超すエリアにいる事がある。しかし、この手のバスは回遊傾向が強くなっていて非常に釣り難い。橋脚、岬沖、護岸周りなどに立ち寄った際に狙い撃ちにするしかない。もちろん、ティンバー、大岩、人口物などバスが着き易いスポットを知っていれば大釣りの可能性もある。

  リザーバーで釣りをするなら絶対に外せないポイントがある。それがインレットだ。

  リザーバーは、どうしても水質が悪化し易いという特徴を持っている。それは、水を人工的に塞き止めた上、水の流出を意図的にコントロールしていることが原因である。要するに、水が入れ替わり難いのだ。夏場にはアオコが大量発生し、秋にターンオーバーが起こると、影響が大きいのもリザーバーである。このため、新鮮な水が供給されるインレットはリザーバーでは一も二も無く狙うべき一級ポイントとなるのだ。湖の水質が悪化した時が特に狙い目で、水量が豊富なインレットにシャローが絡むと最高である。

  リザーバーのもう一つの特徴、それは水位変動の激しさである。それはもう10m以上の水位変動は当たり前という感じだ。特に4〜5月、田植え時期には見る見る減水して行く。真夏に水不足になると湖底が見えてしまうほど減ってしまうこともある。そうかと思えば台風で一夜にして満水に戻ったりもする。水位が大きく変動した場合、バスの活性は著しく下がってしまう。

  リザーバーのバス釣りは秘境探検だと言ったがそれは、危険度においても秘境探検並みだという意味でもある。山奥のリザーバーでの釣りは時に命懸けだ。バス釣りではあまり聞かないが、渓流釣り師は実際結構死んでいる。リザーバーの両岸は切立った崖である事が多い。オカッパリで先を目指すには、その切立った崖を進まなければならないのである。滑って落水はまぁ、当たり前。崖から転落、落石、崩落に巻き込まれるなどすれば洒落にならない事態となる。

  重要なのは危険予知と自らの能力の把握である。個人的には落水は覚悟の上で進んでいるが(おいおい)、崩れそうな崖や、張り出した大岩の下などは通らない様にしている。また、薮こぎ理論(人の言った事の無い場所にはでかいバスがいる)に従って人跡未踏の薮をこいで行ったら、本気で方向を失って遭難し掛けた事があった。行った先でマムシ噛まれでもすれば大変なことにもなるだろう。一人釣行の時はあまり無茶をしない様にはしている(ほんとかよ)。

  また、リザーバーによってはボートを出すのが禁止、エレキ、エンジンが禁止、マイボート持込み禁止、立ち入り進入禁止区域など独自に様々なルールを定めている場合がある。釣りをする前にその辺を管轄の事務所などに問い合わせた方がいい。

  リザーバーではバスは魚を食って大きくなり易い。このため、野池ではまず出番が無いビッグベイトや巨大スピナーベイト、ディープクランクが活躍する。豪快な釣りが楽しめる訳で、正に本格バスフィッシングをやっているという満足感も得られる。当然、釣れるバスもでかい。そもそも秘境にある事が多いので、空気は美味いし緑はきれいだ。秋などは紅葉も楽しめる。夜中に到着すると星が降るように輝いている。

  リザーバーで浮いていると、釣りにおける非日常性がより一層強調される。僕が釣りに行く大きな理由は、浮世のストレスを水に溶かすことにある。遠征してリザーバーに浮くことはそれだけで十分ストレス解消になるのだ。同じ釣りをするなら、野池でオカッパリよりリザーバーに浮いて釣りがしたい。もちろんデカバスがぼこぼこ釣れれば言う事はない。

  ただし、そこで水に落ちたり、デカバスを連続でばらしたり、タックルを水に沈めたりすれば、ストレスは発散どころか倍増する事疑いない訳だが。




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