ラトルの功罪

  インジェクションプラグにはラトルが付き物である。

  そもそもラトルは1970年代、ザ・スポットというバイブレーションのウェイトが手違いで外れてしまい、ごろごろ音が出るものが出来上がってしまったことが始まりだという。

  それを偶然使ったアングラーはあまりに良く釣れるのに驚き、予備を買い求めた。しかしそもそもスポットは今で言うサイレントである。幾つ買っても音の出るモデルに当たらなかったそのアングラーはメーカーに問い合わせた。

  「音が出る?」驚いたのはメーカーの方である。そのアングラーに頼んで件のスポットを送ってもらい、内部を調査してみた。そして同じ様に音が出るスポットを作ってテストしてみるとこれが素晴らしく釣れたのである。

  そうして晴れて誕生したのがラトル入りの「ザ・スポット」である。これが世界初のラトル内臓ルアーとなった。

  現在では、ラトルの入っていないルアーは探すほうが困難なほどである。これには幾らか散文的な理由がある。要するにウェイトを完全に固定するには接着剤で固定するなど一手間余計に掛かるのである。ラトルが入っているルアーなら、ウェイトが多少動いて音が出ても分かりはしない。だから不完全な固定で済む=コストが下げられるのである(バイブレーションXウルトラやブザービーターのサイレントモデルは固定が不完全なため少し音がする)。

  ラトルがバスに対する有効なアピールであることは疑い無い。水中では音は空気中よりも速く遠くまで広がる。このため、手っ取り早くバスにルアーを気付かせるのにラトル音はこの上なく有効なのである。特にバスが目ではなく音や波動を頼りに餌を捜しているマッディウォーターではラトルは必須であると言って良い。また、ラトル音にはバスに不快感を与える目的もある。バスを怒らせてバイトさせるにはラトル入りルアーの方が適している。

  一方で、ラトル音はバスをスレさせ易いという側面も持ち合わせている。速く遠くまで広がり易いということは、非常に広範囲のバスがその音を聞いているということでもある。何投もしているうちにバスはその音に慣れ、興味を失ってゆく。こうなるとバスにリアクションさせたり怒らせたりというラトル音本来の役目は失われてしまうのである。また、プレッシャーが高く、水がクリアであるなどバスがアングラーの存在に神経質になっている場合、ラトル音はバスにアングラーの存在を知らせる「警報」になってしまう場合も有る。

  ラトル音を忌み嫌うアングラーは少なくない。ジャラジャラ音が出るバイブレーションなどバスを散らすだけだと思い込んでいるのである。そういう人の近くでバイブレーションを投げていると露骨に嫌な顔をされる。しかしながら、ラトル入りルアーはノンラトルルアーと比較して、やはり確実に釣れる場面が多いと思う。

  ラトル音が本当に有効なのは、バスの活性が高めの時である。こういうバスが突然大音響のラトル音を聞かされると、驚き、怒り、ついルアーに食いついてしまうといったことが起こる。この場合ノンラトルルアーではインパクトが弱いのである。カバーの周囲をうろついていたり、シャローで獲物を求めてクルーズしていたりするようなバスを狙うには大きな音が出るルアーが有効である。

  ニュートラル状態のバスにスイッチを入れるのにもラトル音が有効な場合が有る。やや重低音系の、バスの嫌いな音を聞かせてやるとバスが怒り出すのである。こういう場合はややゆっくり、長い時間を掛けて音を聞かせてやると、いきなりバスがいきり立ってルアーに襲い掛かってくるものである。

  低活性のバスにはグラスラトルなど高音質のラトル音が有効である。実はバスには高い音はあまり良く聞こえないらしい。同じ理由で聞こえるか聞こえないこというような微妙な音の出るルアーは食い気の薄いバスに興味を引かせ易い。余談であるが、この理由によって冬場にはラトル入りラバージグやワームが有効なのである。

  この様に、一口にラトルと言っても音の質によって使うべき場面が違う。そのため、例えばバイブレーションでも何種類ものモデルを持って行き、場面によって使い分けるべきなのである。

  では、サイレントモデルが有効なのはどのような場面かというと、当然バスがスプークしてしまった場面である。アングラーの存在を感知し、カバーの中に逃げ込んでしまったりストラクチャーにぴったりと付いてしまったりバスには少しでもナチュラルな要素を持つサイレントルアーでバスの警戒心を薄れさせてやらなければならない。また、バスが一所で溜まっており連発が期待できる場面では、ラトルインのルアーでバスに不必要な刺激を与えない方がより多くのバスをそのポイントから抜くことが出来る。

  ラトル入りルアーとサイレントルアーをローテーションするのはかなり有効なメゾットである。ラトル入りルアーを投げるとバスは即座にルアーの存在を感知する。しかし、実際にバイトに至る以前に違和感を覚えて警戒態勢に入ってしまうバスもいるのである。そういうバスは実はスプークするまでは行かず、ルアーが気にはなっている。そこに違った刺激を持つサイレントルアーが現れると安心してバイトに至ることがあるのだ。ポイントは、ラトル入りルアーを通した後少し場を休ませることである。叩き尽くしたと思った場所からポロッとでかいバスが釣れたりする。

  誤解してはいけないのは、基本的にラトル音はバスを呼び寄せるためのものではないということである。音につられてバスがカバーから出てくるようなことはまず有り得ない。このため、ラトルがあろうと無かろうとルアーを「バスの居る場所」に投げ込まないとバスが釣れないという原則は変らない。使い分けはあくまでバスへのアピールの度合いと質による。

  最近ではクランクベイトにしろバイブレーションにしろサイレントモデルが持て囃されているが、やはりラトル音を使いこなせなければ一人前のハードベイター(?)とは言えんと個人的には思う。池中に響き渡るラトル音を頼もしく感じるようになってこそ、本物である。

 ただし、あまりにも小さな池でラトル入りバイブレーションを投げすぎると、バスが難聴になってしまうかもしれないが。




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