重い竿か軽い竿か

  竿は軽い方がいいに決まっている。

  以上、終わり。

  …え?だめ?いや、でも、当然なんですよ。ほんと。

  軽い竿の利点を列記してみよう。まず、軽いと長い事釣りをしても疲れない。特にジャーキングやトップウォーターの釣りをする際にはこれがなかなか侮れない違いとなる。

  感度も重要だ。軽い方が感度が向上する。何故かというと、重いものよりも軽いものの方が少ない力で動くからだ。つまり、軽いロッドの方が微細な当たりでもロッドを振動させることが出来る訳である(もちろん感度の要素はこれだけではない)。

  操作性も良くなる。繊細なアクションを付けるには軽いロッドの方がやり易い。ワームの釣りではかなり重要なポイントとなるだろう。

  まだある、飛距離も伸びる。軽い方が速いスピードで振れる訳だから飛ぶに決まっている。軽ければ長く出来るし。

  逆に言うと重いロッドはこれら全てがデメリットとなる訳だ。重いロッドなど百害あって一理無し。以上、証明終わり。

  …で済むならロッド選びは簡単な訳だ。しかしながら、そうは問屋が卸さない。軽いロッドにも欠点があるからだ。

  軽いロッドの最大の欠点、それは強度の問題である。

  ロッドを軽くするにはどうしたらいいのだろうか。もっとも手っ取り早いのは、ブランクを薄くする事である。例えば今まで四層巻いていたカーボンシートを三層に減らせば、接着剤に相当するレジンも減らせる訳であるから劇的に軽くなる。他にもいろいろな要素はあるが、カーボンロッドの軽量化というのは大体こうやって実現される。

  つまり、竿の「身」の厚みが薄くなるのだ。薄くなるとどうなるか?カーボンというのは衝撃に弱い。四層あれば亀裂や傷で済んだものが、三層になれば折損に至るかもしれない。軽いロッドが時に驚くほどあっさり折損するのは偏にこのためである。

  耐久性の問題も指摘せねばならない。カーボンロッドというのは、使っている内に「腰抜け」という現象を起す。これは、カーボンシート同士の接着面やカーボン繊維の目が緩むことで引き起こされるらしいのだが(良くは知らん)、軽いロッドの方が、身が薄い分早く腰抜けロッドになってしまうようなのだ。

  主にこの二つの問題があるために、ロッドの軽量化には限界があるのである。簡単に言えば、丈夫で長持ちするロッドを作ろうと思うと重くなってしまうという事だ。逆もまたしかり。軽いロッドは壊れ易く長持ちしないものと思った方が良いだろう。性能を取るか、丈夫さを取るか。このバランスを取るためにどのメーカーも大変な苦労をしている。

  実は、軽量ロッドの欠点がもう一つある。値段が高いのだ。これは、軽量に作るためカーボン層を薄くすればするほど制作が難しくなり、NG品も多く出るために、その分の値段が製品価格に跳ね返ってくることに由来する。性能は良いが、高くて壊れ易い。軽量ロッドはなかなか気難しい竿なのである。

  性能命というアングラーは軽い竿を何しろ絶賛する。それはそうだ。前述したように、軽いロッドは重いロッドに対して性能面でほとんどあらゆる面で上回っているのだから。だがしかし、ロッドを消耗品と見るアングラーならば兎も角、長く愛用しようというアングラーは、軽すぎるロッドを選ぶべきではないと思う。

  カーボングラファイトには幾つか種類があり、それは弾性率という良く分からん数字によって表わされる。釣竿に使用されるのは弾性率30〜60トンくらいのカーボンであるらしい。他にグラスファイバーもロッド素材としてはポピュラーで、これの弾性率はカーボンよりも低い。弾性率とは要するに「撓り戻り」強さのことで、プラスチックの板とゴムの板ではプラスチック板の方が薄くても強く反発するというようなものである(間違っていたらすいません)。

  弾性率が高いカーボンで作れば作るほど、ロッドは軽く出来る。より少ない素材で同じ固さのロッドを作れるからだ。低弾性素材で同じ固さを出そうとすれば、どうしてもブランクが肉厚になってしまう。しかも、高弾性になればなるほど感度が良くなる。プラ板とゴム板ではどっちの感度がいいかを考えればこれはすぐ分かる(そうか?)。

  ビバ!高弾性カーボン!すべからくロッドには高弾性カーボンを使うべきだね!…という訳にもいかない。高弾性カーボンロッドにはデメリットが無い訳でも無いからだ。

  よく言われるのが食い込みの悪さである、バイトを弾くという奴だ。弾性率の高い素材は、ちょっと曲げただけでも強く反発する。低弾性ロッドなら反発しない曲がりでも強く反発してしまうのである。つまり、バスがちょっと咥えて引っ張ったくらいの曲がりに過剰に反応して、ラインを引っ張り、バスの口からルアーを出してしまう。

  同じ固さの低弾性ロッドよりも、曲がっていった場合に大きな反発力が生まれてしまうことが欠点になる場合もある。これは言い換えればパワーだとも言えるのだが、曲がる限界が早く訪れるということでもある。限界が早く訪れれば突発的なバスの突っ込みなどに対応し切れず、ラインブレイクの危険性が増す訳だ

  キャストがやり難いという点もある。高弾性ロッドは撓り戻りが強く、早い。これはバックラッシュを誘発させ易いという特徴にもなるのだ。低弾性カーボン製のロッドを使うと、あまりにキャストがやり易いので驚く。

  これらの欠点があるために、低弾性カーボン及びグラスファイバーは未だに使われ続けている訳である。特にグラスファイバーロッドは「重い、だるい」という欠点をカーボンコンポジットすることで克服する事によって生まれ変わったロッドが多数作られている。

  なんだか話が明後日の方にいってしまった気がするが、かようにロッドというのはいろいろな要素が絡み合って作られているというお話である。ロッドを買う時にはメーカーの謳い文句と共にそのロッドの特性を素材や重さの観点から吟味することも必要なのだ。もちろん、テーパーやグリップや構造特性も加味する必要が有るから、またよりいっそう大変である。

  まぁ、趣味の道具選びはそこまでやるからおもしろいとも言える。




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