根掛かりについて

  根掛かりほど凹むことはそうある物ではない。

  なにしろ、1回の根掛かりは2つの悲劇を生むのである。

  まず、ルアーの殉職である。1つ2千円近いプラグが帰ってこないというのは貧乏サラリーマンにとってはのっぴきならない大悲劇であると言える。ワームも、あれも下手をすれば1本100円近くになるものもあり、馬鹿に出来ない。

  同時に、ポイントを潰してしまうということが起こる。根掛かりしてしまい、ラインをシェイクしたり引っ張ったりして水やカバーを荒らしてしまったポイントは、最早それでお終いである。その日1日そのポイントにバスが入って来ることは期待しない方が良い。小さな野池などの一級ポイントでこれをやらかすと、かなり痛い。

  根掛かりは可能な限りしたくない。しかしながら、バスはカバーに潜む習性を持った魚であり、殊にデカバスはカバーの奥にいる事が多いのである。カバーにルアーをぶち込めば当然根掛かりし易い。根掛かりを恐れてカバーを攻めなければ釣れない。このアンビバレンツな究極の選択に、答えを出せたアングラーは未だいない。

  絶対根掛かりしないルアーなどというものはない。

  物凄くガードの強いラバージグでも、運が悪ければ根掛かりはしてしまう。これは、ルアーというものがバスの口に針を掛けなければならないという性質を持っているからである。針が付いていないルアーなら根掛かり率は格段に下がるだろうが、それではルアーとは言えない。更に面倒なことに、根掛かり難いルアーになればなるほどフッキングが困難になるものである。

  基本的に、プラグの類は根掛かりし易い。これはトレブルフックがむき出しでぶら下がっているのだから当然である。特に、リップが無いプラグは最悪である。代表選手はバイブレーションで、特に泳ぐ姿勢が水平に近いものほど根掛かり易い。

  クランクベイトは、プラグの中では根掛かりし難い方であるが、これも場合による。確かにウッドカバーやリップラップならばかなり交わしてくれるが、布地や枯れ葦などにはすこぶる弱い。また、ウッドカバーなどでも微妙にリーリングスピードを調節してやらなければやはりスタックしてしまう。

  ハードルアー類で一番根掛かりしないのはスピナーベイトである。アッパーアームが寝ているものほど根掛かりし難い。また、ヘッド形状が低重心であった方がやはり根掛かりし難いものである。

  ラバージグ、テキサスリグがバスルアーの中では最も根掛かりし難いルアーだと言えるだろう。特にラバージグは余程の事が無い限り根掛かりしない。ただし、これもやはり物による。ガードブラシが固めであるのは勿論だが、ボトムや障害物を乗り越える時に横倒しにならないことも重要である。

  さて、数々の工夫にも関わらず根掛かりしてしまったとする。ここで重要なのがラインの太さである。

  特にオカッパリの場合、最後に頼れるのはライン強度である。ラインをもって引っ張った結果、がっちり根掛かりしたルアーが奇跡的に回収出来たということはよくある。この場合、ラインのポンド数が太ければ太いほど回収の確率が高まることは言うまでもない。オカッパリでプラグを使う場合、ナイロンなら最低20LB。フロロでも最低16LBのラインを使うべきである。

  世の中には根掛かり回収機というものが存在する。長い棒状の物と、ロープの先にルアーに絡み付かせるための重りが付いている物が存在する。一度手痛い根掛かりロストに見舞われるとルアー回収器の必要性を痛切に感じるものである。が、これが困ったことに根掛かり回収機によっては、オカッパリでは使い様が無い物が少なくないのだ。僕の買ったロープの先に重りの付いたタイプのものは一度も回収に成功しないまま自分が根掛かりして殉職してしまった。

  根掛かりで一番腹が立つのは水中の捨てラインにプラグが絡み取られた時である。これはどんなに気を付けていても避けられないトラップである。捨てラインが弱く自分のラインが太くて強い時は捨てラインを引き千切れる時もあるが、複数のラインに頑強に絡み付かれた場合どうしても回収できないことに相成る。そんな時は心の底からそのラインを絡ませた奴に「弁償しろー!」と言いたくなる。頼むからラインを切る時は引っ張ってノットの部分から切って欲しい。

  バスがカバーを好む魚である以上、根掛かりとは縁が切れないのがバス釣りというものである。しかし、根掛かりには水中へのルアーの投棄という側面がある。出来るだけルアーを根掛かりさせない。根掛かりしても可能な限り回収するというのはアングラーの義務である。4LBくらいのラインで無謀なカバーを攻め、根掛かり&ラインブレイクが多発した挙句「ワームが勿体無い」と笑っている様ではいかんのではないかと思う。

  それにしても大事なルアーを根掛かりしてしまった時の気分はどうであろう。やむを得ずラインを切る時の、実際に切れてしまった時の、あの悔恨と愛惜は、諸行無常を感じさせるほどである。僕には未だにトラウマになっているようなルアーロストの経験が幾つかある。それでもやはりバスを釣りたければカバーの中にルアーを投げ込まない訳には行かない訳で、そこでまた人生の矛盾を考えたりも、少しする。




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