長靴について

  長靴を持っていないバスアングラーがいる。

  僕はその事実を知った時に驚倒したものだ。一体彼らはどうやって薮こぎをするのであろうか?

  もちろん、薮こぎなどしないというのが正解であった。薮こぎをしないアングラーがいるというので僕はまた驚いたのであるが、まぁ、それは個人の趣味であろう。薮こぎをしない人がいるからこそ、薮こぎをするとでかいバスが釣れる訳であるから、僕などは彼らに感謝しなければならないのかも知れん。

  さて、長靴の話である。僕にとって長靴は釣りに行く際の標準装備だ。はっきり言って、僕は釣り場に向う際には、そこがきちんと護岸された公園型野池であろうとも、必ずと言って良いほど長靴を装着する。釣り場を移動する際にも脱がず、そのままコンビニに入ったりもして、店員さんにへんな目で見られたりもする。

  何故にそんなに長靴を愛好するのか。もちろん、薮こぎをするためである。バスは、人の行かれない場所にいる奴ほどデカイ。そして、油断している。そいつらを釣るためであれば、そこが例え人跡未踏の密林であろうとも越えて行くのが真のバスアングラーというものである。薮こぎをするために必要な最低限の装備、それが長靴なのだ。

  長靴は何の役に立つのか。簡単に言えば、足元が汚れない。別に水に入ることを前提としなくても良い。踝程度にまで茂った草を踏み分ける際にも、ズボンの裾は意外に汚れるものである。長靴を履くだけでこれは簡単に防ぐことが可能なのだ。

  怪我の予防の意味もある。釣り場にはいろいろなものが落ちている。ガラス片や鉄片、竹杭、捨てられたフックなどなど。踏んづけて怪我をすれば釣りどころではないし、下手をすれば命に関わる。また、ヘビに噛まれる可能性もある。長靴を履いてさえいれば、かなりこれらを防ぐことが出来るだろう。

  そして何より、少しだけ水に入れることに起因する、攻められるポイントの広がりというものがある。僅か水深20cmのエリアに入れるだけで、渡れなかったインレットが渡れるようになり、届かなかったブレイクが攻められるようになることはままある。それは、単に長靴を履いていなかったがために、履いていれば釣れたはずのバスが釣れない事態が起こるということでもあるのだ。

  長靴にもピンからきりまである訳である。中にはオシャレな長靴や、ウェーダーの親戚のような本格派なものもある。しかし、僕はあえて、あまり高くない奴を買った方が良いと忠告したい。

  なんとなれば、長靴というのは消耗品だからである。バスアングラー、ことにオカッパリアングラーは、歩く。半端無く歩く。そして長靴は、そもそもそんなに歩くことが想定されていない履き物なのである。これは忌々しいことに、高価な長靴であればあるほどそうらしい。3000円もした長靴が1月で水漏れするようになって以来、僕は2000円以上の長靴は買わないことにしている。

  さりとて、1000円以下のいわゆるおっさん長靴もやはり良くない。見栄えではなく機能的に劣るからだ。何しろ丈が低く、底が薄い。釣りに使う長靴は、出来る限り丈が高く、底が厚いものが望ましい。見た目に丈夫そうな製品であることはもちろん、店晒しになっているようなものはゴムが劣化しているかもしれないので避けた方が良い。サイズは厳密に合う奴を選ぶこと。大き過ぎると泥濘で脱げてしまい易く、小さいと足指が痛くなる。

  たまに、鋲が打ってあるスパイク長靴というものがあるが、あれは良くない。護岸帯を歩くとカチカチ音がする。バスに聞こえてしまうだろう。内側にボアが張ってあるタイプは、当たり前だが夏暑い。

  長靴の発展形はウェーダーになる訳だが、僕はやばい薮こぎをする時には、先へ行ってから水に入るつもりが無くてもウェーダーを履いてしまう。その方が服は汚れないし、怪我もし難い。野池オカッパリではまずほとんど履いて行く。特に川では必須だ。しかし、ウェーダーを履くとある意味、多少無茶しても大丈夫と油断してしまい易く、うっかり大落水して全身ずぶ濡れになってしまうことも多いので注意が必要だ。

  長靴を履いて薮や浅瀬を押し渡っていると、黄色い長靴を履いて泥んこ遊びをした幼き頃をちょっと思い出す。バス釣りというのはやっていると童心に返れる遊びだと思うが、長靴を履いていることもその理由の一つになっているのかもしれない。特に調子に乗り過ぎて靴下を濡らしてしまうと、ガキの頃同じ事をして、お袋に怒られたことを苦笑しつつ思い出すこともある。




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