メンタルバスフィッシング論

  なぜだか、釣れる気がする日、というのがある。

  朝、家を出る前からデカバスと出会える気がする。そんな日は、なぜか本当にでかいバスが釣れることが多い。予知能力か?そんな馬鹿な。

  そんな日は、釣れる気がするのだから集中力も高まり、集中力が高ければフィールドを観察する目も鋭くなり、フィールドの状況を良く把握出来ていればポイント選択、ルアー選択も的確になり、その結果良い釣果に恵まれる、というのが真相であろう。

  スポーツは須らく精神状態が結果に影響を及ぼす。基本的にはお魚の機嫌が良ければ釣れるはずの釣りでさえそうだ。

  例えば、気乗りがしない状態で釣り場に向かったとする。そういう場合、往々にして結果も良くない。これは、気乗りがしないので集中力が無く、集中できなければポイント選択も、ルアー選択も散漫になり、キャストもいい加減になるため釣れず、釣れないことが更に集中力の低下に繋がるという悪循環が生じるからである。

  そう、鍵は集中力だ。でかいバスが釣れた時の自分を思い返してみると、非常に集中出来ていたという記憶がある。

  ここで言う集中とは、例えばヘラ師が浮きの動きを、全身全霊を込めて注視するようなミクロ的集中の仕方とは、若干異なる。バス釣りの場合、例えばロッドからのインフォメーションのみに集中するような、釣りの一部の部分だけに意識を集めることは時にマイナスに作用する。ロッドに気を取られていたら、ラインが動いたのに気が付かずにバイトを逃したなどということは良くあることだ。

  バス釣り的集中というのは、ロッドを操作しながらもラインの反応、風の動き、魚探の反応、ライズ、水の色などなどを同時にチェックするというような、マクロ的な集中の仕方が求められるのだ。これは、乗り物の操縦時に求められる集中力に似ている。木を見るのではなく森を見る。五感を総動員して、フィールド全体を把握出来るように気を張り詰めてこそ、バス釣り的に集中している、ということが出来るだろう。

  では、集中して釣りをするにはどうしたら良いのだろうか。これは難しい問題だ。逆に、どのような時は「集中出来ないか」を考えてみた方が易しいかもしれない。

  経験から言えば、体調が悪い時は集中出来ない。風邪を引いている、前日寝不足、ゴルフに行っちまって疲れている、などという時は意識を張るなどということは到底出来ないだろう。まず、釣りに行く日までに体調を調えておくこと、これは絶対条件なのではないだろうか。

  釣りがし難い状況、という時はまず駄目だ。大雨、強風、高波、酷暑などの極悪な自然条件だけではなく、水上スキーが走り回っている、漁師に邪魔される、オカッパリが邪魔で岸に近づけない、後席がうるさいなどという人的災害もある。こういう時には、戦う前から負けがちだ。常よりも一層強い精神力が求められる。

  激ネガコンディションも精神的ダメージがでかい。激低水温、ターンオーバー、抹茶アオコ、減水、増水、土茶濁り。釣り場に着いた瞬間Uターンしたくなってしまったら、もう駄目であろう。

  状況が良くても、ノーバイトの時間が長引くと、集中力は次第に衰えて行く。釣りがいい加減になれば、釣れるべき魚も釣れなくなる。

  では、釣り場で集中力が欠けていると感じた時、どうやって集中力を取り戻したら良いのだろうか。

  まず、なんでもいいからとにかく魚を一匹釣ってしまうことである。ギルだって良い。

  集中力が薄れて行く時には、誰しも釣りに来た本来の目的「バス釣って楽しむ」ことを忘れがちになっているものである。魚が釣れ続けていればアングラーというのは現金な生物であるから、集中力が途切れてしまう事は無いのだ。せこくてもチビでもなんでもいいから魚を触れば、集中力は容易に取り戻せる筈である。デカバスを狙うのはその後でも遅くはない。

  根拠も無く「今日は釣れる」と心に言い聞かせるのも有効だ。一番まずいのは「なぜ釣れないのだろう?」とか「腕が無いのだろうか?」などと自問自答することである。自分を追い込んでしまうと精神的袋小路に迷い込み易い。

  得意なルアーをリグってそれをひたすら投げ続けるのもいい。この時「絶対釣れる」と強く自己暗示を掛ける事を忘れずに。ルアーをとっかえひっかえ変えるのは良くないが、自信があるのならその限りではない。

  某キャナピーは、釣り場に到着すると「さぁ、凄いバサーが来たぞ!ここのバスは全部俺が釣っちまうぞ!」などと言う。もちろん、まったく根拠はない。しかしこれは集中力キープ的には有効な手段でもある。なにしろとにかく自信を持つ事が集中力維持のためには必要なのだ。

  とにかく、上手いアングラーであればあるほどこの手の精神集中が見事だ。ビデオなどを見ていても、有名アングラーは時にカメラの存在を忘れてしまったかのように釣りに没頭している。一緒に釣りに行った連中にデカバスを釣られてしまった経験を思い返してみても、彼らは没我の境地でルアーを投げていたものだ。特に厳しい状況下で目の覚めるような一匹を叩き出すアングラーは、ネガコンディションに負けないほどの精神集中が求められる。

  そもそも、釣りはお魚との真剣勝負である。いい加減な精神状態では魚に負けてしまうだろう。せめてお魚に馬鹿にされない程度の精神力は身に付けたいところである。




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