暗闇

  バスアングラーは、物影が大好きである。

  梢が作り出す影。立ち木が作り出す影。橋脚が作り出す影。桟橋が作り出す影。

  アングラーは影を見付けると嬉々としてそこにルアーを投げ込む。それがロープが作り出す糸の様に細い影であっても、とにかくそこに目掛けてルアーを送り込もうとする。影がどこにも無ければ、自分の影にルアーを落してやれやれと安心したりもする。

  なぜ、アングラーはそんなに影が好きなのだろうか。単純に言えば、バスが影に潜んでいることが多いからである。

  バスには獲物を物影に潜んで待つという性質がある。影に潜んでいると、日差しの下を通る獲物を目視し易い、というのがバスが好んで影の中に潜む要因であるらしい。バスは日差しを嫌う、という説もある。もっともこれはどうかと思う。真夏の日中に日向ぼっこしているバスがいない訳ではないからである。ただ、バスの適水温は15〜20度ぐらいなので、それ以上に水温が上がった場合は少しでも涼しい日影で涼みたくなるのだろう。これは人間でも同じだ。

  影の中にはバスがいる。それがアングラーの合い言葉である。そのため、アングラーは過剰なほど物影が好きだ。病が深まると、部屋のテーブルの下にさえバスが居そうな気がしてくる。

  もちろん、バスはいつどこでもシェードに居る訳ではない。冬場などは暖かい日差しの下に居る事もある、カバーに居着いておらず、沖を回遊しているバスも居る。たまにとんでもない所でドカーンと浮いているデカバスを目にして驚いた経験がある人も多いだろう。しかしながら、そういうカバーに居着いていないバスというのは、往々にしてやる気が無く釣り難い。やはりバス釣りの王道はカバーのシェードを攻めることにある。

  カバーを攻める際に、影側を攻めるのと日向側を攻めるのでは釣果は確実に違う。それが単なる棒杭であっても、影側にルアーを落せば釣れるものが、日当たり側では食ってこないのである。このため、ルアーを投げる前に太陽の位置を確認することを習慣にしておいた方が良い(なんかかっこいいな)。ただし、影にルアーを落すということは、バスの頭上にルアーを落すということである。この場合、出来得る限りルアーをソフトに着水させることには留意した方がいい。バスの活性が低かった場合驚いて逃げてしまう可能性があるからである。

  自分の影が水面に落ちていると、水中の魚に気付かれてしまうという説があるが、これは本当である。一度見えギルで実験したのだが、影を落さない様に観察していた時にはくつろいでいたギルが、腕を動かして影を水の中に落した瞬間逃げ散ってしまったのである。水際に立つ時には太陽を背にしない方が良い様だ。

  真夏のシェードはまぁ常識だが、影ならなんでもいいのかというとそうでもない。真夏は特に、シェードの中のシェードを意識すべきである。例えば、オーバーハング下のレイダウンとか、ティンバーに絡んだ浮きゴミなど、複合カバーの濃いシェードが特に狙い目となる。

  春先は日向の方がいいと思い込んでいる人が多いが、けしてそんな事はない。バスはやはりシェードに潜んでいる。ただし、真夏の様に濃いカバーの奥にはあまりおらず、カバーの外周部をうろうろしていることが多い様だ。これは、バスというよりベイトフィッシュが日影に入りたがらないからであろう。このため、オーバーハングや葦島などでは先端部分にいることが多くなるので、カバーへの接近のし過ぎは厳禁である。

  本当にやる気のあるバスは、光と影の境目を非常に強く意識しているものである。そういうバスはカバーの奥にルアーを直接送り込んでもまず反応しない。逆に居場所からかなり離れていても、境目にルアーを通すと吹っ飛んでくる。

  影に拘らないバスも、いなくはない。特に秋のバスにその傾向が強い。秋のバスは、シャローへ上がってベイトフィッシュを追い回している事がある。そういう時には、よさげなカバーで音もしないという場面が出てくる。また、真夏に水温が上がり過ぎてしまうと、バスがシャローのシェードでは過ごしきれなくなってディープに落ちてしまい、やはりシャローのシェードでは釣れなくなったりもする(特にデカバスは)。

  初心者の頃は誰しもバスが影にいるなどとは知らない。シェードにバスが潜むことを覚えると途端にバスが釣れるようになる。その時の感動がアングラーを物影マニアにしてしまうのである。

  しかし、街を歩いている時にも物影を覗いて歩くようになると、流石にそれは病気だと思う。




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