カバークランキング概論

  世界初のクランクベイトだと言われているのが、1970年代にフレッド・ヤング氏がハンドメイドした「BIG-O」である。

  BIG-Oがどのようなルアーであったかを知るには、バグリーのバルサB3を見れば分かり易い。バルサ製で、かなり大柄なファットボディのシャロークランクだったのである。ちなみに現在コットンコーデルから発売中のBIG-Oでは、最大サイズモデルがもっともオリジナルに近い。

  BIG-O登場までにダイビングプラグが無かった訳ではない。もっとも古い物だと思われるのがボーマーの「ボーマーベイト」である。水に浮き、リーリングすると水中の潜って行くこのモデルのキャッチコピーは「ボーマーベイトならバックラッシュしても回収できます」であった。それまでのプラグはトップウォータープラグでなければシンキングだったのである。

  しかし、BIG-O以前のダイビングプラグは、クランクベイトとは呼ばれなかった。これには理由がある。

  元々、最初にBIG-Oに注目し使い出したのはアメリカのバスプロ達だったのである。彼らはBIG-Oの斬新性に注目し、トーナメントで使い出した。そして次々と好成績を上げたのである。BIG-Oのことを知らない仲間のプロは不思議がって「いったい何を使ったんだい?」と聞く。しかし、聞かれた方は教えたくない。それではぐらかす意味でただ「巻く奴だよ」と答えたのである。これが語源になって巻く=クランクするルアーという意味で、クランクベイトというカテゴリーが誕生したのである。故に、これ以前のダイビングベイトは、クランクベイトとは呼ばれないのである。ちなみに、今のプロは同じ様な質問をされると「マネーベイト(お金が稼げるルアー)さ」と答えるらしい。

  しかしながら、BIG-Oの一体どこがそれほど斬新だったのであろうか?

  BIG-Oの製作者フレッド・ヤングは小魚が泳ぐ姿を見て、その泳ぎを模したルアーを作ることを考えたのだという。そして試作を重ね、バルサという素材とあのファットボディに辿り着いた。

  その結果は非常に大振りで切れのあるウォブリングアクションであった(もちろん、BIG-Oは持っていないのでバルサB3からの推測)。しかし、これだけなら同様のアクションをするルアーは他にもあったかもしれない。しかし、BIG-Oはそれにプラスして高い浮力を持っていたのである。これがプロ達に、恐らくはフレッド・ヤングが想像もしなかったであろう使い方を発想させた。

  それがカバークランキングである。シャローエリアに点在する倒木や切り株にルアーを絡ませて、カバーの奥に潜むバスを誘い出してバイトに至らせるのである。BIG-Oがマネーベイトになり得たのはその高い浮力が優れた障害物回避性能を生み出していたからである。それまでカバーを攻めるにはスピナーベイトで狙うかテキサスやジグを使うしかなかった。BIG-Oは新たなる釣法を開発する原動力になったのである。

  BIG-Oのコピーモデルが次々と作られ、クランクベイトという新しいカテゴリーが誕生したのも、カバークランキングが時に恐ろしい爆発力を見せることがプロの間に知れ渡ったからである。現在でもカバークランキングはトーナメントのウイニングメゾットに、頻繁になっている。

  カバークランキングはなぜそれほどまで有効なのかを考察してみよう。まず、カバークランキングは基本的にマッディシャローのフィールドで有効なメゾットであること知っておかなければならない。マッディエリアではバスはカバーに張り付き易く、シャローに居着き易い傾向がある。その様なフィールドで、特にウッドカバーが広いエリアに渡って点在するようならばカバークランキングの出番である。

  その様な場面で例えばスピナーベイトを使用するとなると、カバーに対してのコンタクトは一瞬になる。このため、カバーについたバスを拾いきれない場面が出てくる。テキサスやジグならばそれはないが、逆に一つのカバーに対する時間がかかり過ぎる。

  クランクベイトはスピナーベイトよりもカバーに対して遥かに濃密なコンタクトが可能である。しかも、テキサスやジグなどよりも手早く複数のカバーを探って行ける。これが、限られた時間で広大なトーナメントエリアを攻めきらなければならないプロがカバークランキングを好む理由なのである。釣りに効率の概念を持ち込むとは如何にもアメリカ的だ。逆に言えばカバーに乏しいフィールド、狭くてすぐに回り終えることが出来る、時間が無限にあると言った場合には、ジグやワームを使えばいいのでカバークランキングに拘る必要が無い訳である。日本のプロがカバークランキングをあまりやらないのはこの理由による。

 

  さて、ここでカバークランキングに向いたクランクベイトとはどのような物であるかを考えてみよう。簡単に言えば要素は2つある。1、カバーを良くかわし2、良く動く。そんなクランクベイトこそカバークランクというに相応しい。

  1のカバーを良く交わすという要素はカバーで使用する物であるからには当然必要とされる性能である。アメリカのクランクベイトには恐ろしく高い浮力を持った物が多いが、これはスタックしそうになった時に強い浮力で上に逃げるためである。日本製のクランクベイトは遠投性を優先しているために浮力が弱い。カバーを回避するよりもストラクチャーにヒットした際のフラタリングを重視する傾向がある。このため、カバークランキングには不適とされるのである。

   2の良く動くだが、カバークランキングに関わらずルアーの命はそのアクションである。ゴミを拾って動かなくなったルアーにバスはほとんど食いついてこない。バスがルアーにバイトする際、最終的な判断材料にするのはルアーの巻き起こす水流である。この水流が大きく激しいほどバスは興奮し易い。カバークランキングはカバーの影で待機状態、もしくはその周辺でサスペンドしているバスを釣るメゾットである。このためバスを「その気」にさせられるか否かは釣果を大きく左右する。また、カバークランキングはカバーに当たったらルアーのアクションを止めなければならない(根掛かりするから)。この後の立ち上がりのレスポンスは非常に重要である。少ない距離でも確実にアクションするクランクベイトでなければカバークランクとは言えないのである。この観点から日本製の重心移動式クランクベイトは立ち上がりの悪さのために失格となる。また、本来アピール力に優れるはずのラトルインのインジェクションルアーもどうしてもピッチが荒くなる。プロが好んで使うバルサ製クランクベイトはこの部分で非常に優れているのである。

  一見クラシカルなバルサB3は今もアメリカのプロがシークレットとして大事に使うほどの傑作カバークランクである。それは上記2点を高い次元で満たしているからに他ならない。ポイントはファットで大きなボディが生む高い浮力からくる大ウォブリング。その浮力とスクエアリップとが生む高い回避性能である。特にOLDのバルサB3は非常に柔らかいバルサを使っていて、コーティングが薄いことも相俟って並外れて浮力が高い。これが、プロたちが血眼になってOLD品を探す理由である。こうしてみると、カバークランクに何より必要な要素は高い浮力であることが分かる。

  ルアーのアクションと回避性能を決定付けるのはリップである。BIG-Oを制作したフレッド・ヤングはリップに、電子基盤に使われるサーキットボードを採用した。これは、彼が手に入れることが出来た素材の中で、サーキットボードがもっとも軽くて丈夫、そして薄かったからである。リップが無ければクランクベイトはアクションしない。しかしながら、リップはアクションするルアーにとって重さと水流抵抗を生ずる邪魔物でもある。リップの表面積が大きければ大きいほどルアーは潜るしアクションも強く出来るが、あまり大きくし過ぎると重さと抵抗で逆にアクションに切れが無くなるのである。これを防ぎつつリップを大きくするには軽くて薄い素材が不可欠である。

  BIG-Oはノンラトルである。現在、アメリカのプロが使っているバルサ製カバークランク達は皆ノンラトルである。このため、カバークランクはノンラトルであることが条件のようになっている。しかし、これは実際には副次的要素に過ぎない。なぜならマッディシャローという、バスがルアーを視認し難い水域で使われるカバークランクは、出来るだけルアーを目立たせなければならないのである。本来はラトルが入っていた方がアピールには優れている。プロたちがあまりラトル入りルアーを使わない理由はアクションと回避能力に繋がる高い浮力優先でルアーを選択した結果「たまたま」選んだルアーにラトルが入っていなかったからではないかと思う。実際、ウィグルワートやボージャックのようにラトルが入っていても良い動きをするクランクベイトは、ちゃんとトーナメントプロのBOXの中に納まっている。

  カバークランキングにおいて、カラーはそれほどは重要ではない。カバークランキングはマッディシャローで有効なメゾットである。このような状況下では、ルアーのカラーはバスからの視認性を重視せざるを得ない。アメリカのカバークランクがあれほど派手派手しいカラーをしているのはそのためである。要は、目立てばいいのである。個人的には蓄光カラーなども効果的なのではないかと思っている。

  クランクベイトのアクションは、基本的にウォブリングとローリングのミックスである。アメリカのクランクベイトはウォブリングが強いタイプが多く、日本のクランクベイトにはローリングが強い物が多い。これは、日本のバスフィールドにはクリア〜ステインくらいの水質をしたフィールドが多いからである。クリア寄りの水質ではローリングアクションの生むフラッシングは有効なアピールになる。むしろ派手なウォブリングはバスをスクープさせ易いとさえ言える。しかしながら、マッディシャローで有効なカバークランキングにおいては、ウォブリングアクションの方がバスに対して強くアピール出来る分有効だと言うことが出来る。

  アメリカのカバークランクを使うとその潜行深度の浅さに驚く。これは、これらのクランクベイトがボトムノックを想定していないからである。つまり、ウッディカバーの上の方、水面下ら精々1m前後の部分に絡めて使うように出来ているのである。これは、バスが基本的に水面方向を意識している魚であること、特にマッディエリアではバスはシャローの水面近くにいる魚であることを考えれば極めて合理的な設計だと言える。なぜなら、これ以上潜らせてシャローカバーに絡めた場合、根掛かりでポイントを潰してしまう危険性が飛躍的に上がるからである。ただし、当然クリア寄りの水質ではバスはより深い水深に居着いている。このため、日本で発売されるクランクベイトはほとんどが2m前後まで潜るのである。

 

  さて、ここまででも頻繁に出てきたアメリカンクランクと日本製クランクの違いである。近年アメリカンクランクがブームになりアメリカ風クランクも日本で発売されるようになっている。僕もかなりの数のアメリカンクランク及びアメリカ風クランクを購入してみた。しかし、これらのシャロークランクを使って思うことは、活躍できる場面が意外に少ないということである。

  これは、僕のメインフィールドが野池で、しかもほとんどオカッパリだからである。オカッパリからカバークランキングをやるのはやはり苦しい。カバークランキングが広範囲を手っ取り早くサーチして行くためのメゾットであることを思えば当然である。他に行くフィールドとしてはリザーバーもあるが、これもクリア〜ステインの水質であることと、岸からいきなり深くなるという性質上、カバークランキングをやりたい場面はあまり訪れない。

  僕がクランクベイトを用いる時というのは、バスがボトムにべったり張り付いているか、ボトムを意識している時が多い。この場合、投入する場所は基本的に護岸やリップラップ、テトラなどのハードカバーとなる。ボトム狙いの性質上狙う水深は深めで2m〜5mである。こうなると、1m前後しか潜らないシャロークランクは出番が無い。

  更にオカッパリでは遠投性能が重要である。バルサ製シャロークランクは絶対的に飛距離が出ない。そして、水質がクリアないしステインというフィールドでは、ややロールの混じったフラッシュの効いたアクションの方がバスに興味を引かせ易い。

  重要になるのがフラタリング、つまりヒラ打ちである。カバークランキングでバスがバイトしてくる時というのは、クランクベイトがカバーに当たり、動きに変化があった時である。カバーに当たる機会が多い場合には、クランクベイトは頻繁に挙動変化を起す。しかしながら、変化の少ない護岸やリップラップを攻める場合、クランクベイトがボトムのちょっとした凹凸でもヒラ打ちしてくれるかどうかは釣果に直結してくる。このヒラ打ちはウッドカバーでカバークランキングをした場合、逆に根掛かりに繋がり易くなる。アメリカンクランクが魅力的なフラタリングアクションを持たないのはそのせいである。

  日本的なクランクベイトの使い方とアメリカ的な使い方は根本的に異なるのである。どちらが良いという訳ではなく使い分けが重要なのだ。少ないとは言えカバークランキングに向いたフィールドがあれば、アメリカンクランクはやはり欠かせない戦力となるのである。

 

  カバークランキングはこのところトレンディな技術となり、猫も杓子もカバークランキングといった感がある。実際僕もその時流に乗ってカバークランキングを始めたので人のことは言えないが。

  現実的な話を言えばカバークランキングを行なうには、レイダウンの隙間を縫って通す神業的なキャストと、込み合った枝に絡ませてもけして根掛かりさせない繊細なリトリーブ技術が必須である。そうでなければ投げる度に場所を潰してしまうだけに終わるだろう。メジャーな技術ながら、誰にでも出来る技術ではないのだということは知っておかなければならない。

  ともあれ、カバークランキングは爆発力のあるメゾットである。自分の周りに向いたフィールドがあると思ったなら、修行してみても損は無いと思う。




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