色の泥沼

  ルアーショップに行くと、多種多様なルアーに囲まれて心がうきうきする。プラグマニアの僕としては、例え金が無くて買えなくても、棚をひやかしているだけで十分楽しい。

  もちろん、金があれば更に楽しい。釣れるルアーを求めて真剣にルアーを選んでいる時は、至福の時であるといっても良い。実に単純な男である。

  さて、世間の評判、見た目から読み取れる性能、そして勘を駆使して釣れそうなルアーを選び出したとする。ここで、最後の詰めとも言うべき選択が待っている。

  それが色選びである。物によっては数十色もあるカラーの中から一つを選び出さなければならないのだ。

  ここで詰めを誤り、釣れないカラーを選んでしまうような事があると、千某円の金が無駄になる訳である。いや、ルアーのデザイン、アクションはいいのにカラーのせいで釣れないとなると、もう一度そのルアーを買って試さなければならないのだから更に金が掛る。

  それゆえ、ルアーのカラー選びは慎重に行なわなければならない。え?そんな貧乏臭いことを言わないで、よさ気な色は全部買って試せ?いやいや。

  ルアーのカラーは大まかに言うと2種類に分類出来る。ナチュラルカラーとアピールカラーである。

  ナチュラルカラーは地味系と言い換えることが出来るだろう。要するに実際のベイトに似せたカラーで、青、黒、銀、茶など比較的落ち着いた色を組み合せている。ナチュラルカラーは、こんな言い方は変だが、バスに見つかり難い様に設定されたカラーである。ルアーの生み出す音や波動に気がついたバスが、目を凝らしてルアーを探した時にようやく見つかるくらいのイメージである。主にクリアウォーター、弱ステインくらいの水質で使うことが想定されており、どちらかと言えば日本人はこちらの方が好きなようだ。

  逆にアピールカラーは兎に角目立たせるように設定されている。黄色、金、赤、緑などの目に鮮やかなカラーである。マッディウォーターエリアの様なバスからルアーが見にくい状況で使うことが想定されており、マッディエリアが多いと言われるアメリカ南東部製のルアーには、ど派手なアピールカラーを採用したものが多い。

  と、まぁ、バス釣り的一般常識ではこの様になる。ここから更に、中間色、ゴーストカラー、メタリックカラーなどが組み合わされるのである。ワームならフレークのある無し、ツートンなどそれはもう呆れるほどのバリエーションが派生するわけだ。釣り場に到着したら、水質、バスの活性、天気など諸々の条件を考慮し、最適なカラーを計算してルアーチョイスする。それには釣り場にもって行くルアーのカラーの種類は多ければ多い方が良い。

  こうしてアングラーは際限無く増えて行くルアーを抱えて途方に暮れる。初めてのフィールドに行く時は不安のあまり店が出せるほど多種多様なカラーのルアーを車にしこたま詰め込んだりする。カラーに悩むあまり、釣り場で考え込んでフリーズしているアングラーも、よく見かける。

  カラーの事を語る時、避けて通れない問題がある。それは「バスはルアーの色を見分けられるのか」という大問題である。

  え?と思うアングラーもいるだろう。世の中にこれほどカラフルなルアーが溢れているということは、そんなことはとっくに解明された問題なのではないか?実は、ここの所がいまいちはっきりしないのである。専門の研究家の間でも意見が分かれる所らしく、はっきりした結論は出ていないようなのだ。

  ただ、少なくとも白と黒の違いは分かるようである(当たり前だ)。青と黒と赤の違いもどうやら分かるようである。ただ、ベージュと白、青とグレーのような同系色の違いはよく分からないのだという。何しろ研究者によっても意見が食い違うのではっきりとは断言できないのだが、どうもバスは、あんまり細かな違いを分かってくれるほど目が良くないらしい。

  と、いうことは、こっちが必死に気を遣うほどバスはカラーを気にしとらんと言うことである。けしからぬ話ではないか。

  では、カラーは釣果に全然関係しないのか?といわれれば、これはそうとも言い切れない。実際バス釣りをしていれば、カラーによってバスの釣れ具合が違うという状況にはたまに直面する。他人が釣れているカラーに合わせただけで自分も釣れるようになるといったことは良くあることだ。何故その様なことが起こるのかは、はっきり言ってよく分からない。ベイトの色に合わせると良いとも言うが、生物離れしたどチャートカラーにバイトが集中することもよくある。発生状況に一貫性が無いのだ。

  有名アングラーがビデオや本で自分のテクニックについて語る場合でも、カラーについて触れることは意外なほど少ない。触れた場合でも一般論に終始している場合がほとんどである。バストーナメント発の最近の流行で赤針にフックを変更するというものがあるが、これもプロによって効果に否定的な場合もあり、使っているプロからして「効果がある気がする」くらいの認識であるらしい。

  アングラーは、誰しも自分の得意カラーを持っているものだ。特にワームは、このワームならこれ!という必殺カラーを持っている人が多い。これに至っては理論的な裏付けが無いことがほとんどである。2〜3色試して釣れるカラーを選んでいるならまだしも、初めて買った時のカラーを延々使い続けている場合も多い。何しろこうした場合、水質によって使い分けられる様な事すら無いのだ。

  詰まる所、カラーの話はオカルトに近くなる。「このカラーが釣れる!」と強く信じれば釣れる、などというと宗教にも近くなる。バス語の翻訳装置でも開発してバスに詳しい所を聞いて見なければ、結局本当の所は分からないだろう。

  どんなカラーでも釣れる時は釣れる。ジンクリアの水域でどチャートのクランクで釣れたりするとつくづくそう思う。しかし、釣り場でお気に入りカラーのワームが品切れになってしまうと、それだけで途端に釣れない気がしてしまうのは何とも不思議なことである。




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