初場所の歩き方

  初めて行く場所でいい釣りが出来たためしが無い。

  何が辛いと言って、釣り場の状況が分からないのが辛い。どこがいいポイントなのかはもちろん、今日はいい日なのかそうでないのか、それすら分からないのである。

  状況を掴むために迷走し、ごく当たり前に撃沈。それが初場所でのいつものパターンである。

  そもそも、小さな野池ででも無ければ、そのフィールドの状況全てを掴むなどということは夢物語である。ボートを使っても、全ての岸際をチェックし終わった頃にはタイムオーバーになるだろう。大型リザーバーや天然湖ともなれば、全体の状況を隈なく探るには一年や二年は掛かる。そういうフィールドを解析する事もバス釣りでの楽しみの一つだと思うが、大遠征をかまして滅多に来られないフィールドに来た時などは、そんなことは言っていられないのである。

  よく、バスプロなどは「フィールドに着いたら竿を出さずに、まずフィールド状況を観察するために、一通りを見て回りなさい」という。状況把握も出来ずにいきなりロッドを振り始めては視野が狭くなる。まずは大きな視点でフィールドを観察して、フィールドの特徴や今日の状況を掴むと良い、という意味だろう。これは確かにその通りなのだが、釣り場に着いてルアーを投げずにいるなど、御馳走を前に待てを強いられた空腹犬よりもアングラーにとっては辛い事だ。それに、昨今のフィールドのハイプレッシャー化においては、良い場所にすばやく入って動かないことは基本である。のんびり釣り場を巡っている暇などあろうはずが無い。

  初場所では、いわゆるサーチベイトを使ってフィールドを手早くチェックする、というアングラーもいるだろう。しかしながらこれも夢物語的な話であると言わなければならない。なんとなれば、そのサーチベイトがそもそもハズレだった場合、フィールドを回り終えましたけれどさっぱり状況が分かりません、という事になるからだ。既にある程度そのフィールドの状況を掴んでおり、そこからポイントを絞り込む時にこそサーチベイトは威力を発揮するのであって、初場所でいきなり有効なサーチベイトが見付けられるようなアングラーならそもそも初場所を苦にすまい。

  現実的な話をするなら、そのフィールドに行く前に、インターネットや雑誌で徹底的に情報収集しておくべきであろう。そこに行った事のある、腕の確かな仲間が居るならそれに越した事はない。そこの近くのショップに電話して有効なルアーを聞くのもいい。そして、聞いた以上はその情報を信じる事。よく、仕入れた情報を話半分に聞いて、実際に釣り場に着いたら全然違う事を始めるアングラーが居るが、これではどんな情報も宝の持ち腐れになろうというものだ。現地行って、釣りをしている地元アングラーから詳しい事が聞ければ更に情報の精度は高まるだろう。

  特に大場所での話になるが、そこに初めて行った場合には、初めからある程度エリアを絞ってしまう事をお勧めする。例えばリザーバーなら、湖の半分くらいを今日のエリアと決め、そこ以外が如何に良さそうでも、心を鬼にして無視するのである。初場所で一番まずいのは、万遍なくやろうとするあまりフィールドの表層をさらっと流してしまう事だ。これでは実は何も見ていない事と同じであって、見て回った後ポイントを絞り込むことさえ難しくなるだろう。ザックリ探るのでも、ある程度は真剣に釣りをしなければ何も解らないのだ。

  初場所で起こりがちな事に、どこもかしこも良く見える、逆に悪く見えるということがある。こういう状況に陥った時には、まず良い釣果に恵まれた事が無い。これは恐らくフィールドに乗込んだ時の心理状況が既に冷静ではないからだろう。自分がそういう状況にあると自覚した場合、ポイントから少し離れた場所から、フィールド全体の形を確認すると良い。すると、そのフィールドでの「バス釣りの常識的な」良いポイント悪いポイントが見やすくなる。同じ理由でフィールドの全体図を持って行くもの良い。

  初場所に行く時は誰しも不安になる。故に売り出しセール中の釣具屋か、というようなルアーセットを持ち込むアングラーが多い。しかし、これは使った事も無いルアーの試し投げ大会に終わってしまう危険性を秘めている。本当は逆に、超一軍と呼べるようなルアーを厳選して持って行った方が良い。

  そもそも、初場所でいきなり良い釣りをしようなどと考える事自体が不遜な事なのだと思えなくも無い。小さな野池でさえも、初めて来るアングラーと通い込んだアングラーとの間には、歴然とした差が生まれてしまうのがバスフィッシングというものなのである。プロだって試合の前には何日も掛けてプラクティスを行なうのだから。

  それでも初場所に行くたびに、そこに通い込んだアングラーが驚くような釣り方で驚愕の釣果を叩き出してやろうと意気込むのは、アングラーの悲しい性という奴なので仕方が無い物なのであるけれども。




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