冬のバス釣り

  冬にバス釣りに行く奴は阿呆であると自信を持って言える。

  なにせ釣れん。全然、まったく、最悪に釣れん。鼻水も凍りそうな寒さの中、震えながら一日中キャストを続けた挙げ句の果てにノーフィッシュ。いったい自分は何をやっているのかと激しく自分を問い詰めたい気分になる釣り。それが冬のバス釣りである。

  人は何故冬にバス釣りに行くのか?バスは秋にはそこそこ良く釣れる魚である。それが秋の深まりと共に次第にフェイドアウトするように釣れなくなって行く。遂にはまったく釣れなくなるのだが、いまいちその時期が見極め難いのである。そのため、秋の思い出を引きずってついつい釣り場に出かけてしまう。釣れなければ悔しい。悔しいからまた竿を担いで出かけてしまう。そして気が付けば雪の中震えながら竿を振っている自分が居る訳である。

  バスは基本的に温水性の魚である。水温が10度を下回れば活性が極度に落ちてしまう。5度を下回ればほとんど動けない。冬にバスが釣れないのは多分にこの理由による。なので冬は水温計を常備して、水温が5度を切っていたら回れ右して家へ帰り、こたつに入ってみかんでも食うことをお勧めする。

  しかしながら、アングラーほど諦めの悪い人種を僕は知らない。池が凍っていれば氷を叩き割ってでも釣りを続行するのが真のアングラーというものである。不思議なことに、冬のアングラーは釣れない時間が続いてもけしてへこたれない。冬は釣れないのが当然だとわきまえているからなのか、寒さのためにやけくそになって脳内物質が過剰分泌されているからなのかはよく分からないが、冬のアングラーはとりわけ諦めが悪くなっている。

  冬にバスを釣りたかったら少しでも水温が高い場所を探すべきである。湧き水は年中水温が一定なので、冬には絶好の好ポイントとなる。あとは家庭や工場の温廃水などもいいが、これは水質が悪い場合もあるので注意が必要である。非常に浅い野池は好天が続けば期待できるが、逆に凍ってしまうことも多い。風が強い時には風裏にバスが逃げ込んでいる事があるが、こういう時は状況が悪すぎてそうそう釣れるものではない。

  常識的にはディープがいいはずなのだが、これもディープに落ちてしまったバスに果たして食い気があるのか?という問題がある。むしろ食い気があるバスはシャローの日だまりに居るものである。日当たりが良く、風も当たらないシャローエリアに枯れ葦などがあれば条件としては完璧である。テトラなどのコンクリート物は暖まり易いので、バスが身を寄せて暖をとっていることが多い。

  冬のバスは動きが鈍いので、基本的にはスローに動かせるワームがやはり強い。ハードルアーではポーズが出来るサスペンドシャッドが有効である。メタルジグのリフト&フォールでリアクションバイトを誘うのも有効のようだが、僕には釣れたことが無い。日向に出ているバスは意外に浮いているものなので、トップに出たりもする。

  冬のバスを釣るために最も必要なもの、それは楽天的な性格である。雪が降りしきっていたなら「雪の日は意外に暖かいんだよね」と納得して釣り場に出かけ、強風が吹き荒んでいたなら「こういう日は風裏に逃げ込んでいるのに違いない」とわくわくして釣り場に出かけるようでなけばならない。要するに釣り場に出かけなければバスは釣れないのだから、理性的に考えて引っ込んでしまう様ではいかんのである。だから冬にバス釣りに行く奴は阿呆だというのである。

  しかしながら、そうやって出かけて行った先で見事にバスを釣り上げた時の喜びは計り知れない。例え子バッチでもその価値は春に釣ったバスの何倍にも感じられる。この喜びを味わってしまうと阿呆であることを自覚しつつもついつい釣りに出かけてしまう。冬はオフシーズンと決め込んでしまう頭の良いアングラーにはこの喜びは分かるまいと思うといっそ愉快ですらある。

  釣り場に立って北風に吹かれていて、ほんの少しだが春が近付いてきたことを実感できる事がある。生命感の無かった水面にハッチやライズを見たり、枯れ草の中に青い芽が覗いていたり、先週は凍っていた池が溶けていたりすると、なんだか心がわくわくしてくる。やはりアングラーたるもの春は釣り場で迎えたい。水温計の一度の違いに一喜一憂しながら春を待ってこそ春のありがたみが一層分かるというものなのである。

  ただし、極寒の中釣りに出かけた挙げ句に風邪を引いても誰にも同情されないことは、覚悟しておいた方がいい。




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