ファイト!

  正直に告白すると、僕はバスとのファイトが下手である。

  まぁ、釣行記を見て頂ければ一目瞭然なのであるが、バラシが非常に多い。特に05シーズン終盤の連続デカバスバラシは個人的にもトラウマになりそうなくらい悔しかった。これらのバラシはもう少しファイトが上手ければ防げた可能性がある。

  フックアップされたバスは必死である。文字通り命懸けで抵抗し、フックを外そうとする。連中は口に掛かったルアーを外す方法を知っているとしか思われない節がある。エラ洗い、ジャンプ、急激な突っ込み、テールウォークなど心憎い方法で、バスは見事にアングラーの手から逃れてみせる。もちろん、このファイトがバス釣り最大の山場であり、一番楽しい場面でもあるのだが、3日は眠れなくなる悪夢の温床の源になってしまう事があるのもまた事実なんである。

  僕が言うのもなんだが、バスとのファイトの肝は非常に簡単である。

  それは「落ち着いてファイトせよ」という事に尽きる。どんなくやしいバラシも後で考えたら「あれをああしたなら…」と思える部分が必ずある筈だ。落ち着いて、平常心であればファイト中にその事に気付けたかもしれず、バラシを回避する事が出来たであろう。氷のような冷静さで状況を見極め、適切な対処をする。これが出来れば後悔で立ち直れなくなるようなバラシはほとんど防ぐ事が出来る。はずだ。

  だがしかし、その事を理解している僕が馬鹿馬鹿しいバラシを繰り返しているように、これが簡単ではない。アングラーはでかいバスを釣る為に散々苦労をしているのである、デカバスをキャッチした瞬間というのは、それまでのバス釣りプロセスの、まさに集大成なのである。その瞬間がまさに訪れんとする時に、落ち着いてなどいられる筈も無い。興奮し、緊張して当然である。また、落ち着き払ってバスを釣っても面白くも何とも無い。

  故にここから書く事は僕がいつも実践している事でない事をご理解いただきたい。バラシまくった苦い経験を元にした理想論でしかない。

  バスを掛けたら、まず何より先にランディングポイントを考えるべきである。足元にテトラがあったり薮だったりした場合、バスを足元に寄せた後にランディングポイントを考えたのでは選択肢が少なくなってしまう。バスが沖にいる内にすばやく移動してしまうべきなのである。

  ランディングポイントを確保したらここからが本番である。

  バスとのファイト中、フックオフがもっとも発生し易い瞬間は、バスがジャンプした時である。バスの華麗なジャンプこそバス釣りにおけるもっともエキサイティングなワンシーンだと言うべきだが、バラシてしまったのでは元も子もない。出来るだけバスをジャンプさせない事はバラシ軽減の為の絶対条件となる。

  バスがジャンプしようとした瞬間、ロッドを水の中に突っ込むのがもっとも一般的な方法である。しかし、この方法はそれでもバスがジャンプしてしまった時には、ラインテンション過剰で逆にフックが外れ易い。いざバスがジャンプしたらラインを少し緩めてやった方が良い。

  バスが向いている方角にラインを張ってしまうと、当然だがフックが外れ易い。バスが向いているのと反対の方角にロッドを向けラインを張ってやるのは基本中の基本である。これにはバスが現在どちらを向いているかを冷静に観察する必要がある。ロッドを立てすぎるとバスが上を向いてしまい、すっぽ抜け易いので、ロッドは常にやや倒し目にすべきである。

  タックルにもよるが、慎重すぎるバスとのファイトは逆にバラシの原因になるものである。長いファイト中にフック傷が開いてしまったり、ラインテンションが知らず知らずの内に緩んでしまったりし易いからである。バスを掛けたら半ば強引にバスを寄せてしまった方が、フッキングも深くなるしラインテンションも抜けないのでばらし難くなる。

  バラシの中でも悪夢の温床ランキングNO.1は、ランディング寸前のバラシである。今や手を掛けんとした、姿も見えたデカバスを、目の前でばらしてしまった時のショックは筆舌に尽くし難い。このバラシは、実は簡単な方法で防ぐ事が可能である。

  それは、ネットを携帯する事である。バスを寄せたら有無を言わせず掬い上げてしまうのである。ランディング寸前のバラシは、竿を立てた状態で手間取った時に発生し易い。寄せるや否や掬ってしまえば手間取りようが無い。

  もっとも、ボートならば兎も角、オカッパリでネットを携帯する事は、現実的には困難である。移動時、薮こぎ時にはネットどころかロッドでさえ持ち歩くのが大変なものである。いつ出会えるとも知れないデカバスの為に邪魔なネットを持ち歩くのは、精神衛生上良くない。ただし、持っていれば確実にバラシは減るので、本来はロッドの本数を減らしてでも携帯すべきだとは思う。

  ネットを使わないランディングで最もバラシが少ないのは、ぶち抜いてしまう事である。寄せてきたらそのままの勢いで「さっ」と抜いてしまうのである。もっともこれはラインが細かったりロッドが弱かったりすれば出来ない。兎に角バスを寄せてから無用に手間取らない事がバラシを減らす鍵となる。

  バスとのファイト中は自信を持つべきである。「このバスは絶対にキャッチできる」という自信がある時には大概そのバスはキャッチできる。逆に、少しでも心の中で「危ないかな?」などという不安が過ぎったり迷いが生じたりすると、バスは容赦無くばれる。そのためにはタックルにも目を配り、フックを鋭くする、ラインチェックをするなど不安要素を出来得る限り無くしておいた方が良い。

  それにしても、僕もいろんな釣りをやったが、フックアップした後でこれほどばれてしまう魚はバスが初めてである。フッキング後のドキドキファイトこそ、日本内水面の釣りでバス釣りにのみ与えられた至福の時間だと思える。同時に、デカバスを逃がした後の茫然自失の時間も、バス釣りの醍醐味の一つなのではないかという気も、ちょっとする。




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