ぶち曲がりについて

  ロッドをバッドからぶち曲げるのは、アングラーの夢である。正確にはぶち曲げてくれるほどの魚を掛けるのは、であるのだが。

  水中に突き刺さるティップ、ギシギシと音を立てるリールシート、悲鳴を上げるライン。それでも水中へ突っ込むのを止めないバスによって、正に折れんばかりにへし曲がるバット。ああ、もしもここでロッドがバッドから音を立てて砕け散ったなら、釣り師としての本懐ここに勝るもの無し!という思いが頭を過ぎったりする(本当に折れたら泣くが)

  まぁ、実際には純粋な魚の引きに負けてロッドが折れるなどという事はそうあることではない。実際、1mクラスのレン魚、80UPのコイを掛けてもロッドは折れなかった。竿を立て過ぎたり無理に煽ったりしなければロッドは折れない物なのである。さもなくば不良品だ。

  「ぶち曲がり」は某社長()の表現の真似である。これがなかなか絶妙な表現というべきで、「へし曲がり」「竿満月」というような表現よりも、なんか野蛮な響きがあって僕は好きだ。

  バスの引きはトラウトやコイ、フナ、ハヤなんかに比べて暴力的で野蛮である。連中は、特にでかくなると、恐ろしい勢いでダッシュをし、時に大ジャンプをする。水深のある場所ではどこまでも潜っていき、ロッドを深々とぶち曲げる。このバスの好ファイトが、特に釣り歴の長いアングラーを一発でバス釣りに引き摺り込む要因の一つであろう。在来魚種にはこんな凶悪な抵抗を見せる魚はいない。

  華々しくぶち曲がるロッドを見るのはアングラー至福の時であるが、ベリーならともかく、バッドまで曲がっている場合には危険信号だと思うべきである。ここまで曲がってしまうとロッドには最早弾力が無い。ここから更にバスが突っ込んだ場合、全ての荷重はラインに掛かることになり、ラインブレイクの可能性が極めて高くなる。しかも、ここまで曲がるとリールのドラグも出難くなってしまうのである。

  高弾性カーボンロッドは張りがあり一見強そうだが、ある程度曲げてしまうとすぐに弾力が無くなってしまう。このため、強いロッドを作るには固くしなければならない。柔らかくても粘るロッドを作るには低弾性カーボンかグラスファイバーを使うしかない。特にグラスロッドはどこまで曲げても弾力が抜けないので、カーボンに比べてラインブレイクの可能性が低くなる。また、グラスロッドはカーボンに比べて柔らかいので、殊に華々しくぶち曲がってくれる。

  俺はどこでもデカバス狙い!という人以外は、そのフィールドの平均サイズのバスでも大きく曲がるくらいのフレックスのロッドを使うといい。ウルトラライトフレックスのロッドを使うと、30cmくらいのバスでもしっかりぶち曲がってくれる。勿論そのタックルで40UPが掛かってしまったら一大事であるが、悲しいことにその可能性が極少だという場合はそういう楽しみ方もある。トラウトロッドを使うと正直30UPのバスにも遊ばれてしまう事がある。

  正真正銘のデカバス。45UPクラスでしかも魚を食っているバスの引きは尋常ではない。しっかりホールドした筈のロッドが引き倒され、ぶち曲がりを楽しみ過ぎると20LBナイロンラインがあっさりブレイクしたりする。このクラスのバスに対してはやはりMクラスのロッドでは苦しい。MH〜Hクラスのロッドでないと安心してファイトは出来ない。勿論柔らかければファイトは楽しいが、バラシの悪夢を見る可能性も上がる。

  引きが強いバスを釣りたければ、川バスを狙うと良い。川のバスは流れの中で生きているので泳力が強い。同様の理由によりリザーバーのインレットのバスも引きが強い。ベイトフィッシュを追い回しているバスというのもやはり体力がある。逆に引かないのが野池で虫ばかり食っているようなバスである。45UPなんかを掛けても重いだけでろくに引いてくれない。

  もっとも、引きが強い魚といえば海の青物に敵う魚はいない。なにせ単位がkgである。しかし、あそこまで行くとファイトというより綱引きのようであり、ひたすらに体力勝負になってしまう。やはり、バスとのファイトのように魚との駆け引きが楽しめる方が、僕は好きである。

  ロッドをぶち曲げてのファイトは、でかいバスを掛けたことの御褒美のような物である。子バッチにはこの楽しみはない。アングラーはあの至福の時間を夢見るが故にでかいバスを求めて止まないのである。

  ただ、バスはアングラーを楽しませたくて暴れているのではなく、アングラーを落胆させるために抵抗しているのだということを、ばらしてしまった後に思い出したりもするのだが。




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