ブラックバスを探して

  ブラックバスは外来魚である。

  そのため、本来日本の内水面には生息しているはずも無い。それなのにどうしてそこらじゅうに居るのかと言えば、それはもう誰かが放流したからであると言わなければならない。もっとも、人工のダムや野池にいる魚類というのは、インレットから流れ込みでもしない限り人間が放流したものに違いなく、別にバスだけが特別な事例という訳はない。また、釣り師は昔から鯉でもヘラブナでもヤマメでもアユでも勝手に放流して釣り場を広げてきたという歴史がある。ついでに言えば、バスの放流はつい近年まで違法ではなかった。

  事の是非はともかく、その水域に放流されなければ絶対に生息していない魚である以上、当り前だがバスが居ない池や川や湖というものが存在する訳である。これまた当り前だが、そういう場所では誰が何を投げてもバスは釣れない。絶対に釣れない。シャチョーだろうがイマカツだろうがジムだろうが、絶対にバスを釣ることは出来ないのである。

  僕は以前一度、ある地域の野池群でバス生息調査を行なったことが有る。その地域には大小様々な野池が把握しきれないほどあり、もしもバスが生息しているのならば、なかなか楽しめるフィールドになるのではないか?と思ったのである。

  僕は車に乗り地図を片手に野池探しを始めた。その地域には本当にたくさんの野池があり、適当に車を走らせても野池にぶち当たった。うーむ、バスが確認されれば中には楽園も含まれているかも知れん。僕はかなりわくわくしながら釣りを始めた。

  ところが、これがまたまったく釣れやせんのである。大きな池から4畳半も無いような小さな池まで20近い池をラン&ガンしてみたのだが、釣れないしバスの気配もない。鯉や鮒、よく分からない魚などが居る所を見ると普段水が無いという訳でもないらしい。季節は真夏。腕の問題をさて置いても見えバスやチョイスくらいはあっても良さそうなものである。

  結論として「この地域にはバスはいねー」と断言をせざるを得なかった。後で聞くところによると、中にはバスがいる池も無いではない様であったが、それほど楽園とも言えないらしい。がっかりである。それにしても、それまで僕は日本の全ての池にはバスが入っていると思い込んでいたのだが、意外にそうでもないということを知って驚いた。なにしろ道路端にあるような、如何にもおいしそうな池にもバスは居なかったのである。

  さてこの日、僕は更に新規バスポンド開拓の旅を続けた。忘れ去られたような山道を行ったら行き止まりだったり、地図にある池を見つけ出してみたら水が無かったりという辛く苦しい調査行の末、とある野池に辿り着いた。

  そこは物凄い山奥にある池であった。水辺に寄ってみると水は恐ろしくクリア。そして冷たかった。見る限りバスの姿はない…。あまり期待は出来なそうであるが、とりあえず竿を出してみることにした。

  釣り進むも反応無し。すっかり諦めモードに入っていた僕は「さっさと終わすべー」とばかりに水面をろくに見もせず、適当にルアーを投げまくった。そして、一番奥に入った場所で小さなインレットを見つけたのである。

  その小さなインレットの中州にはガチョウの親子が寄り添って居眠りをしていた。微笑ましい光景。もっとも、この時の僕はかなりやさぐれていたので、そんなのどかな光景すら癪に障ったものである。そして、ちょっといたずら心を出してみた。

  ジャイアントドッグXをセットし、キャスト。ルアーはガチョウの居る中州のすぐ手前に落ちた。予想通りびっくりして顔を上げるガチョウ。そのびっくりさ加減はなかなかおもしろかった(ひどい奴だ)。僕は少しだけ満足し、そのままジャイアントドッグXをドックウォークさせた。

  瞬間、派手な水飛沫が上がってルアーが消し込んだのである。一瞬呆然としたが慌ててフッキング。あがってきたのは25cmくらいであったが間違い無くラージマウスバス!新規野池開拓成功の瞬間であった。

  釣り上げた後でよくよく確認すると、あちこちに見えバスの姿が確認できた。いないと思い込んでいたために良く見なかったのである。もっとも、この日の釣果はこの一匹で終わった。水があまりにもクリアで、バスがルアーを見切り易い様であった。でかいバスも見えない。せっかく発見した野池であったが、特に楽園でもないらしい。大体家から遠すぎる。実際、それっきりその池には行っていない。

  この様に新規フィールド開拓は容易ではない。労多くして功少ないことを覚悟しなければなかなか出来るものではない。しかしながらそうやって発見した場所で釣り上げたバスには大きさでは計れない価値がある。また、行ったことも無い場所に地図を片手に辿り着くだけでもかなりの満足感を得られる。やはり未知なる地平に向かって敢然と馬を走らせる事は、何時の時代も男のロマンを掻き立てて止まないのである(意味不明)。

  そんな訳で今日も地図を開いては水色の点を探し「ここにはバスはいるのかな?」などと思いにふけっている訳である。ただし、例え本当はバスが居る野池だったとしても、腕が悪ければやっぱり釣れないので、「ここはバスが居ないのだ」と思ってしまうことが無いとは言えない。また、野池を探して余所見運転をしていたら車をぶつけてひどい目にあったことがあるので、気を付けた方がいい。




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