ボウズについて

  凸、○、ホゲ、ボウズなどとさまざまな呼び名があるようである。釣りに行って魚が一匹も釣れなかった時「ボウズをくらった」などという。アングラーの悪夢。釣りに行き、最初の一匹を釣り上げるまで頭の片隅にこびり付いて離れない恐怖。それがボウズである。

  朝は日が昇る前から釣りを始め、竿先が見えなくなるまで釣りをしたのに、ボウズ。一週間前から予定を組み、わざわざ休暇までとって来たのに、ボウズ。往復200kmの道のりを遠征してきたのに、ボウズ。何万円もするタックルを使い、高級ルアーを惜し気も無く投入したのに、ボウズ。

  ボウズのショックは、その釣行に精力を傾けていたら傾けていただけ大きいものである。はっきり言って釣りを辞めたくなるほどである。特に遠征してボウズを食らうと、涙で目が眩んでまっすぐ家には帰れない。

  バスは比較的良く釣れるお魚である。サイズを問わなければ一日三桁の単位で釣れる事すらある。このため、バスアングラーは自分がボウズを食らう事などほとんど想像もせずに釣り場に出掛ける。このため、ボウズを食らった時の衝撃が余計大きくなるのである。

  バス釣りでボウズを食らう時のパターンは幾つかある。

  一番多いのが、状況が悪かったというパターンである。冬は無論、初春、晩秋などバスの活性が未だ低い時、もしくは水質悪化、台風時などにはバスは途端に釣れない魚となる。また、初めからあからさまに渋いフィールドもある。この様な場合はバス釣りでもボウズは容易に起り得る。ただし、この場合は大方のアングラーはボウズをかなり想定して釣り場に向かう。このため、ショックはそれほどでもない。

  これもよくあるのが、なぜか釣りが「噛み合わなかった」というパターンである。

  ポイントにキャストする際に、なぜか数cmずれて着水してしまう。倒木にクランクベイトを絡めたら、根掛かりしてしまう。スキッピングが決まったら、ゴミを拾ってしまう。挙句にやっとバスが掛かったら、ばれてしまう。「ちくしょー!」と叫び続けて、気が付いたらボウズ。このパターンが一番辛い。何しろ、不運の連続でストレスが溜まる上、バスの反応はある訳であるから。

  自分の得意な釣りが嵌まらない時に、周りが苦手な釣りで釣っていたりすると、余計意固地になって気が付いたらボウズ、なんて事もある。それではと日和って見ると、やっぱり釣れなかったりもする。前回来た時は良く釣れた、季節柄今日は釣れそうだなどの理由で油断をしていても、手痛いしっぺ返しを食らう事がある。

  釣れない時間が続くと、ボウズをくらうのではないかというプレッシャーがだんだんとアングラーの肩に圧し掛かってくる。このプレッシャーに負け、焦り、ペースを乱すとその日のボウズは決まったような物である。集中力を維持し、自分の釣りを信じ、自分の釣りを貫徹する事が何よりも重要である。それでボウズを食らっても「俺はプレッシャーに負けなかった」という自己満足は得られる、かもしれん。

  アングラーは、ボウズの危機が迫ってくると概ね言い訳を考え始める。「今日は水質が悪かった」「魚が沈んでいた」「風が無かった」「日差しが強かった」等々。この言い訳の善し悪しでそのアングラーの品格が決まると言われている。なるべくカッコの良い言い訳を考えなければならない。なるべくならいさぎの良い感じで、かつボウズの原因が自分の力の及ばない範囲であり自分には責任が無い事をアピールし、それでいて自分の不運と力不足を嘆きつつ、女々しくならない、そんな言い訳をひねり出せれば最高であろう。もっとも、言い訳を考え出してしまった時点でボウズは決まったようなものである。そんな事を考えずに釣りに集中しなさい。

  ボウズを回避するには、時に思い切った方策を用いる必要がある。一番効果的なのがフィールド自体を移動する事である。水質の悪化やバスの活性の問題は一気に解決されるし、何より気分が変る。この手でボウズを逃れた経験は何度もある。大バスは兎も角子バッチならばなんぼでも釣れる押えの池を持っていると更に楽だ。自宅の近所であれば遠征帰りにちょろっと寄ってボウズ逃れと言う姑息な手が使えたりもする。

  とにかくボウズはアングラーにとってプライドの問題である。煮詰まってくるとそこらの土を掘ってミミズを捕まえて餌にしたくなる事もある。ボウズの危機を救ってくれた魚であれば、mm単位の子バッチでも神棚に祭り上げかねない。ボウズを食らうと釣りに行った事をひた隠しに隠すアングラーもいる。はっきり言って、釣りにボウズは付き物である。何しろお魚任せにしてお天気任せの遊びが釣りなのである。お魚の気分が悪ければ当然釣れん。日和が悪くても、やはり釣れん。釣りとはそういうものである。ボウズをくらっても晴れ晴れと笑って「いやー、今日は楽しかった」と言えるようにならなければ一人前のアングラーと言えない。

  ボウズ寸前、日が落ちて真っ暗になってしまった中、ほとんど諦めながらそれでも奇跡を信じてロッドを振っている時の何とも言えない気分が、僕は嫌いでもない。




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