バス釣り用語の怪

  バス釣りは、アメリカの釣りである。

  バスの原産国は北米大陸であり、バス釣りをスポーツとして始めたのはアメリカ合衆国の白人達であった。アングラー達よ、彼らに感謝せよ。我々がルアーによるバス釣りを楽しめるのは彼らの趣味性のおかげなのである。

  さて、バス釣りがアメリカの釣りである以上、その用語のほとんどが英語であるのは無理も無い。竿は「ロッド」、糸は「ライン」、針は「フック」。釣り場でアングラーが「竿がさぁ」などと話していたならそれはまだまだ日本気が抜けきれない素人であろう。真のバス・アングラーは釣り場に着いたら英語しか喋らなくなるものだ(もちろん嘘です)

  バス釣り用語にはバス釣りにしか使わないであろう独特の英語がある。例えば「ティンバー」「レイダウン」「リップラップ」などだ。それぞれ「立ち木」「倒木」「ガレ場」を意味する(らしい)。これらなどは一般人が聞いてもまるで意味が分からず、これがバス釣り用語だと聞いても「?」となってしまうような言葉だ。

「インレットの絡むシャローのリップラップがさぁ」「ワンドの奥のティンバーによりかかったレイダウンのディープカバーに」などというプロの発言を聞いて「ふんふん」と納得出来るようならその人はかなりの勉強家であろう。英語ではなくバス釣り用語の。試しに訳してみると「流入の絡む浅場のガレ場がさぁ」「湾の奥の立ち木によりかかった倒木の深場の障害物に」となって、これはこれでなにがなにやら分からなくはある。

  訳しようのない用語もある。「ターンオーバー」直訳すると「回転して上へ」となるが、それでは何が何やら分からん。晩秋に表水温が低下し、ある段階で深場の水と表層の水が入れ替わることだが、日本訳語は聞いたことが無い。ちなみにつづりが「Turnover」だとすると、「取引高」と訳される。訳分からん。「ワーム」「ラバージグ」「クランクベイト」などは訳するとまったく意味合いが掴めなくなる。

  更に無茶苦茶なことにこれを勝手に日本風に略したり言い換えたりすることがあるのだ。「テキサスリグ」を「テキ」、「キャロライナリグ」を「キャロ」、「ヘビーダウンショットリグ」を「ヘビダン」などなど。「ベイトリール」も本来は「ベイトキャスティングリール」であろう。「スピナーベイト」ほそれだけでも耳慣れない単語であり、それを「スピナベ」と略されるともはや意味不明となる。「スピナベ」を知っていても「スピナーベイト」を知らないアングラーもいる。

  「ジャーク」「トゥイッチ」などは、ごく普通に使われているわりにほとんど誰も真の意味を知らないという面妖な用語でもある。もちろん僕も知らん。たぶんだが、ロッドをグリップごと動かすのが「ジャーク」で、ティップだけ動かすのが「トゥイッチ」なのだろう。うまく説明出来る方は是非教えて欲しい。

  勘違いして覚えられ易い用語もある。筆頭は「バックラッシュ」だろう。「バッククラッシュ」と覚えられていることが余りにも多い。実は僕もしばらくそうだった。「シーズナルパターン」を「シーズナブルパターン」というのも有りがちだ。ちなみに「シーズナルパターン」の日本語訳はどうなるのだろう?英語で書いてくれないと調べ様が無い。自らの恥を晒せば、釣り方を意味する「メソッド」を僕はこの間まで「メゾット」だと思っていた。06年10月以前の釣行記ではそうなっている。すいません間違いでした。

  ラインの強さを意味するポンドはLBと表示される。これも知らなければなぜポンドがLBになるのか海よりも深く悩む事になる。そもそも、なぜバスラインの表示はLB表示なのか?普通に号表示でいいだろうに。親父辺りに「3LBって何号?」などと聞かれると返答に詰まる。

  バス釣り愛好家を意味する「バサー」という用語があるが、なぜか「バザー」と表記される事がある。あれはどっちが正しいのだろうか?僕は基本的にバス釣り愛好家は「バス・アングラー」と呼ぶ事にしている。なんとなくカッコイイ様な気がするからで特に意味はない(英語的に間違っている気もするが)。ヘラ師、コイ師という言葉に準ずれば「バス師」と呼ぶべきかもしれない。これはこれでかっこいいな。

  「ブラックバス」という言葉はアメリカ人もバス類の総称として使っているらしい。日本には概ね「ノーザンラージマウスバス」と「スモールマウスバス」、一部に「ノーザンスポッテッドバス」「フロリダラージマウスバス」がいるが、アングラーの間では一緒くたに「バス」である。新聞を読んでいて「バス」という単語に反応したら自動車のバスのことだったり、ネット検索で「栃木のバス」と入れたら観光バス案内が出てしまったりしたことがあった。あまりバス釣りをやらない人に「スモールが」と言ったら「小バスがどうしたの?」と、意味が食い違って会話が成立しなかったこともある。オッチャンはたまにバスの事を「ブラック」と言うが、最近の若いアングラーにはまず通じまい。

  英語風バス釣り用語はバス釣りをする上で欠かせない。しかしあまりに多用すると胡散臭くなるのも事実だ。TVで魚を掛けた瞬間「フィッシュ!」とか「ヒット!」と言うのはいいのだが「よっしゃ!ふぃ〜しゅ!」とか「お〜っし!ひぃ〜っと!」とかなんか怪しい日本語交じりで叫ばれると、それはそれですごく胡散臭い。また、人間興奮すると訳が分からなくなって「ティンバーのシェード側にクランクをリトリーブしたらワンノックでヒットした〜!」などと叫んで「おまえは何人だよ」と突っ込まれたりしないと限らないので、程々にしたほうがいい。




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