バスはなぜルアーに食いつくのか?
バスというのはルアーなんぞに騙されるほどお馬鹿なお魚である。
…こういう見方でバスを見ている限り、バス釣りは上手くならない。バスがルアーに騙されるのにはそれなりの理由があるからだ。というより、ルアーというのはバスを上手に騙すために色々と考えて作られているのだ。そのことを理解していないと、ルアーの効率的な使い方が分からないし、適切なルアーチョイスも出来ないだろう。
バスの考えていることなど分からん、という方のために分かり易く人間の場合を例にとってみよう。
よくレストランなどにある、メニューを模した蝋造りの料理。あれを目の前に出された時、本気で本物と間違えて食べようとする人が果たしてどれくらいいるだろうか?
普通は食いつくまい。大概は食いつく前に、質感やてかりに違和感を覚えて正体を見破るだろう。その人が本物の料理を食べた事がある場合、蝋造りの料理はどんなに精巧なものでも、やはり蝋造りとしか見られないのである。
バスもルアーをこの様に見ていると思うべきだ。どんなに精緻なカラーリングを施したルアーも、バスから見ればやはりそれは作り物でしかない。つまりバスは、通常の状態ではルアーをベイトと勘違いして食いついてくる訳では無いということになる。
さて、これは困った。ベイトと勘違いしてくれないバスをどうやったらルアーに食いつかせる事が出来るのだろうか。まず考えられるのは、何とかしてバスにルアーをベイトだと思い込ませようとすることである。
これもまた人間の例で考えてみよう。前述した蝋造りの料理。あれを本物の料理だと思い込ませるにはどのようにしたら良いのだろうか。一番簡単なのは、その人を空腹にする事である。死ぬほど腹が減っている人には泥団子だって饅頭に見えるものである。バスも同じ事が言える。空腹状態のバスならばルアーを餌と誤認してくれる可能性は上がると考えられる。春先のバスがやたらと良く釣れるのは、恐らくこの理由による。
良く見せない、という手も有る。蝋造りの料理を薄暗い中で出されたら、それを見破るのは極めて困難になるだろう。バスも濁った水や流れの中ではルアーとベイトフィッシュを正確に判別することは困難になると考えられる。
気を逸らす、という手も有る。テレビを見ながらよそ見をして食事をしている人に、何食わぬ顔をして蝋造りの料理を差し出したらうっかり食べてしまうことは十分期待できる。油断しきったバスの前にさり気無くルアーを通せば、あまり深く考えずに食ってくるかもしれない。
食い易くするというのも良い。蝋造りのパスタでは見破られても、例えば蝋造りの一口チョコレートではどうだろう。それであればあやまって口に入れてしまう人は倍増するはずだ。バスも食い易い大きさや固さのルアーであればひょいと口にしてくれるかもしれない。
なかなか難しい事がお分かり頂けよう。そう、バスにルアーを「餌だ」と誤認させて食いつかせる事はかなり難しいことなのである。もちろん人間も、形や感触はおろか、匂い、味までも本物そっくりに作られた偽料理ならば間違って食べてしまう確立はずっと上がるだろう。バスも、本物のベイトフィッシュそのままというようなルアーであれば、疑いなく食べてしまう可能性は高まるかもしれない。しかし、それでは餌釣りとどこが違うのかという事になる。
そうなると、他の方法を考えざるを得ない。ここで、バスのある習性が、アングラーの助けになるのである。
バスにとって、口は人間にとっての手の役割も果たす。つまり、人間で言えば手で掴んでくれるだけでもフッキングに持ち込める可能性があるということである。
投げてみるという手が有る。ある人に突然ボールを放れば、十中八九受け止める。同じ様にバスは突然ルアーが現れるとつい咥えてしまうのである。フッキングするにはこれでも十分なのだ。
あからさまに怪しいものが道の真ん中に落ちていたとしよう。ほとんどの人は気味悪がって避けるかもしれないが、一部の好奇心旺盛な人は手に取ってそれが何なのか確かめようとするだろう。バスも同じである。ルアーに「なんだこれ」と興味を持ってくれるだけでもしめたものなのである。
怒らせるという手も有る。人は怒ったら相手をぶん殴る。バスは食いつく。
これだけでも、ベイトフィッシュそっくりのルアーを用意するよりもずっと容易に、バスに口を使わせることが出来るということがお分かり頂けるであろう。バスは他のフィッシュイーターに比べて獰猛な上に好奇心が強い。本能のこの部分を刺激するルアーが、バスフィッシング特有のルアー達である。それこそ、バス以外の魚なら逃げてしまうようなルアーでバスは釣れる。
しかしながら、あらゆる局面でその様なルアーが有効なのか、というと、もちろんそんなことはない。バスの状態によっては強い刺激を与えるルアーには反応が無い事もあるし、餌を模したルアーでなければ釣れない事もある。故に例えばバスが釣れた場合、そのバスが如何なる理由によってルアーに食いついたのかが推測出来るか否かで、釣れるバスがその一匹に終わるか続けて釣れるかの違いになるのだ。
バスの心理を素早く分析し、その時バスが求めているルアーを選び出すことが出来れば、釣果がUPすることは疑いない。また、自分がバスになったつもりで、手持ちのルアーを一個一個観察してみよう。これをやると、良いルアーとダメなルアーの違いがなんとなく分かるようになるものだ。
ただし、あまりバスの心理に近付くあまり、本気でルアーにバイトしてしまわないようにと一応忠告しておく。