バラシの事

 バス釣りで一番悔しいのは、折角掛けたバスをばらした瞬間である。
 完璧なフックアップ!慎重なファイト!まさに完璧なやり取りをおこなっても、不思議な事にばれる時はあっさりばれる。それがバス釣りっちゅーもんである。
 バスがばれるのはなぜか?それはバスが他の魚よりも激しい抵抗を見せるからである。そのグッドファイターぶりがバス釣りの魅力の一つであるのだが、ばらしてしまうと、その暴れっぷりが憎たらしくもなる。
 バス釣りを再開してしばらくしての事。僕は僕しかやらないような極悪な薮こぎをして秘密のポイントで釣りを始めた。そこは、とある野池のアウトレット。深いオーバーハングになっており、キャスティングスペースはほとんど無い。しかし、バスやギルの溜まり場になっており、よく釣れる場所であった。
 始めて見ると子バスが何匹か釣れ始めた。この当時の僕のタックルはテレスコピックのいんちき竿にいんちきリール。ラインはナイロン10ポンドを使っていた。ちなみに、ラインはその前日に巻き直したものであった。
 しばらく粘っていると、そのポイントのやや沖。少し落ち込んだエリアに、影が見えた。目を凝らしてみると、それは桁違いに大きなデカバスであった!僕は大興奮し、そのバスの目前にカットテールをキャスト!しかし、そいつは悠然と無視。代わりにその横にいた子バスがヒット。しかし、これが上げてみると35cmのグッドサイズなのである。横にいたデカバスは一体何cmなんだ・・・?
 そいつは観察していると、そのエリアを回遊し、何分かに一回そこに現れるようであった。しかし、ワームには見向きもしない。僕は「こいつは腹が減っていないのだ」と判断し、他のバスを釣る事にした。
 更にしばらく粘ると、そのポイントはすっかり終わってしまった。残っているのはギルばかり。僕はまぁまぁ満足し、カットテールをギルに突つかせて遊んでいた。…その時である。
 いきなり深場からあのデカバスが突進して、水面近くを漂わせていたカットテールを引っ手繰ったのである。ギラッと巨体が反転したのを見て反射的にフッキング!ラインが音を立て、ロッドが撓る。デカイ!はっきり言ってそれまで僕が目にした事も無いビッグワン!推定だが軽く50cmは越えていたであろう。
 僕は念のために追い合わせをくれ、ロッドを支えた。「やった!もう俺のもんだ!」とその時思った事は否定しない。ラインは10ポンドで巻き変えたばかり。更にフックもついさっき結び直したばかり。フッキングもばっちり決まったし、ばらす要素は見当たらなかった。後は巻かれたりジャンプされたりしなければ、念願の50UPが我が掌中に!
 しかし、夢は短かった。バスが沖に向かって突進した瞬間、あっさりラインが切れたのである。…バスは物も言わずに猛スピードで消えていった。
 その時の悔しさは筆舌に尽くし難い。本当に頭が真っ白になって10分くらい前が見えなかった。なにしろ、未だに手に出来ない50UPなのである。
 なぜばれたのだろう?恐らくはフックが小さくてラインがデカバスの歯に擦られたのだと思うが、他にも竿が伸されたのか?ラインが安物だったからか?など様々な疑念と後悔が頭を駆け巡った。未だに思い出すと悔しくて七転八倒する。
 あれこそが生涯に何度も無い(この先は分からないが)トラウマと言っても過言ではないバラシ事件であった。



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