バックラッシュとの戦い

  この世にバックラッシュをしたことが無いアングラーなどいない。あ、スピニング、もしくはスピンキャストリールしか使わないというアングラーは除いて。

  ベイトリールにはそれくらいバックラッシュが付き物である。初めてベイトリールを使った時、途方に暮れるくらいバックラッシュの嵐に悩まされた人は多いはずである。度重なるバックラッシュに業を煮やし、リールを水中に叩き込んで家に帰ってしまった人も、希にいるかもしれない。

はっきり言えば、プロやベテランアングラーもバックラッシュはする。この間の雑誌記事で、アメリカの有名プロがバックラッシュを直している途中で50UPが釣れてしまって苦笑い、というのがあった。最新技術によって生み出された高度なブレーキシステムをもってしても、バックラッシュを撲滅することは不可能であった。何故だろうか?

  そもそもバックラッシュが起こるメカニズムはこうである。

  ルアーをキャストした瞬間、ルアーはラインを引っ張り、スプールを回転させる。しかしその後、空気抵抗やラインの放出抵抗によってルアーは減速する。ところがスプールは引っ張られた速度のまま回転し続けようとする。スプールは放出されるべきラインよりも多くのラインを送り出そうとしてしまい、その結果ラインが玉突き状に詰まりスプールのところに溜まってしまう。これがバックラッシュである。

  このため、ルアー撃ち出し初期にラインが張ってスプールが回り始める瞬間(スプールは回り始めようとするのに、その抵抗でルアーは急減速する)や、ルアーが着水する瞬間などが最もバックラッシュし易いのである。空気抵抗が大きいルアーや軽いルアーなどは飛行中の減速率が大きくスプールの回転がラインの放出を追い越してしまい易いためバックラッシュし易い。突風や障害物などにぶつかってしまうなどしてルアーが急減速した際も、一瞬でスプールが過回転状態に陥るためひどいバックラッシュになり易い。

  このことからバックラッシュを防止するにはラインの放出スピードの変化に応じてスプールの回転をリニアに制御する必要が在る事が分かる。現在使われているマグネット、遠心等のブレーキシステムは通常使用時における緩やかなルアーの減速には相当なレベルで対処できるものの、突風など予想外の外的要因によるルアーの減速にはやはり対処しきれない場面が出てきてしまう。

  ここで必要になるのがアングラーによるスプール制御、つまりサミングになる訳である。基本的なサミング自体はさほど難しいものではない。バックラッシュを防ぐだけならただ強めにスプールを押さえ続けていればいい。しかしながらそれではオーバーブレーキになり、リール本来の性能を発揮し得なくなる。このため、タイミング良くサミングすることが必要になる訳だが、これはスプールの回転が速くなればなるほど、ルアーが軽くなればなるほど難しくなる。

  ましてや、スキッピングや変則キャストなどを行なった場合、ベテランアングラーでも失敗しかねない高度なサミング技術が必要になる訳である。バックラッシュの撲滅が不可能な理由はこの辺にあると思われる。プロなどは必要上非常にシビアなキャストを行なう場面があり、そういうキャストではサミングの難易度も相当高い。ほんのちょっとミスしただけでバックラッシュしてしまうこともあるのだろう。

  そこまで高いレベルの話でなくとも、釣り場において釣りをしている時間よりもバックラッシュを直している時間の方が長いようなアングラーを見ることは、良くあることである。せっかく良い所にキャストを決めた後バックラッシュを直し始めるアングラーを見ると、一体何しに来たのかと問い詰めたくなることもある。

  そういうアングラーは往々にして腕ではなく道具が悪い。いや、安物を使っているとかそういう意味ではない。

  まず、フロロカーボンラインである。フロロカーボンラインには巻き癖がつき難いという長所がある反面、これはスプールに馴染み難いという欠点にもなる。このため、ナイロンならばほんの少しのバックラッシュで済んだものが大バックラッシュになってしまったりするのである。あなたがフロロカーボンラインを使っていてバックラッシュに悩んでいるのならば迷わずナイロンラインに代えることをお勧めする。

  次に、軽すぎるルアーである。最近のルアーはフィネス傾向が強まり、小さく軽いものが多い。前述したように、軽量ルアーをベイトタックルで遠投するには非常に繊細なサミングが必要となる。はっきり言って、1/8オンス以下のルアーをベイトタックルで投げるのには相当に高い技術が必要である。ピクシーやコンクエスト50Sといった軽量ルアーに特化したリールを使用しているのでもなければ、諦めてスピニングリールを使った方が良い。

  固すぎるロッドも問題である。ルアーに対して固すぎるロッドを使用してキャストを行なった場合、ロッドがあまり撓わずルアーだけが大きく急激に移動することになり易い。キャスト直後の大バックラッシュを防ぐにはルアーを徐々に加速させ、スプールを急回転させないことが重要な技術となる。それにはロッドを適度に撓らせた方が良いのである。

  最大の問題点は、ブレーキ設定が弱すぎることである。バックラッシュに悩んでいる人のリールを見ると、驚くほどブレーキ設定を弱めている場合が多い。出来るだけ飛距離を出したいという気持ちの現われだとは思うが、これではバックラッシュしても誰も責められない。最近のブレーキシステムは大変良く出来ており、多少ブレーキを強めても飛距離が極端に落ちることはない。難しいことはせずにブレーキを強めに掛けておくことをお勧めする。

  世の中にはノーブレーキでキャストしてもバックラッシュ皆無という脅威の指先を持っている人もいるようだが、僕辺りはブレーキMAXでもちょっとした変則キャストをするとバックラッシュに悩まされる始末である。釣り場で手ひどいバックラッシュに見舞われて一生懸命修復していると「俺は一体こんなところで何してるんかなぁ…」と、諸行無常を感じてしまうこともある。

  釣り具の技術革新は留まる所を知らないので、その内どこかのメーカーが「絶対にバックラッシュしない」ベイトリールを発売しないとも限らないが、そうなるとベイトリールを使いこなしたくて一生懸命練習した日々が無駄になる訳で、やや複雑な思いもする。




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